【銀魂】右眼の誓い

右眼の誓い　前 ページ39

×××
　




「――はぁ、はぁ、……はぁっ、はーっ、」





　一人、また一人と殺されていく。頬から流れ落ちる血は、敵のものか、それとも。
　多勢に無勢。今回もまた、負け戦なのか。駄目だ。駄目だ。そんなのは、駄目だ。


　慟哭を上げる。敵が怯んだうちに、前を斬り進む。今度こそ、今度こそは、間違えない。敵を斬り殺して、戦果を上げて、仲間の士気を高めて、次の戦に備えて軍備を整え、そしてまた一歩、松陽に近づくのだ。

　乱れた息を整えつつ、目の前の敵を注視する。ぎり、と顔の横で構え、切っ先を敵へと向けた。耳の奥で、自身の呼吸が聞こえる。
　――ウゥ、と何かが唸った。





「――……あ、あ…………？」





「久しいな。A。我が"黒狗の衆"最凶の狗」





　黒装束の男。どくん、と心臓が拍を打って、全身に血が駆け巡った。
　じりじりと肌が熱くなったような気がして、尻目に自身の着物を見下ろしたが、焔のように血が飛び散っているだけだった。
　奥歯を噛み締めて地を蹴り、男へと斬りかかった。火花が散り、周囲を圧倒する殺気が放たれる。

　男との睨み合いが始まり、鳴り響く金属音に耳が痛くなる。全て、全て身に覚えがある。奥底に仕舞いこんだはずの記憶が、もう二度と呼び覚ますはずのない何もかもが次から次へと浮かんで身体が先に反応した。
　――ハァ、と息を吐き出した。


　カァン！ と男の手から剣が離れる。今が好機――そう思った瞬間、男の装束から闇が伸び、そこから溶けるように現れた数匹の狗が唸り声を上げた。

　は、と息が洩れ出る。牙を剥いた狗に切っ先を向ける。涎を垂らし、こちらへと歩み寄る狗が突如襲い掛かって来た。





「待て」





　乳白色の牙が肌を突き破るその手前、男の声が鋭く響き渡る。何度も短く呼吸を繰り返していると、こめかみから汗が一筋、つぅっと流れ落ちた。





「本当に、お前は強いな。A」





「――ぅあッ!? あっ、が、」





　背後から地面に押し倒された。油断した――そういう焦りに気持ちが急く。唸り声のような、そんな何かを上げながら首を後ろへ曲げると、男と同じ黒装束を身に纏い、彼らは身動きも取れないほどの強い力でAを押さえつけていた。





「行くぞ。……お前が探し求めていた人間に会えるぞ、A」





「な、……!?」

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