. ページ31
×××
「――……は、？」
坂本達が、戦争へ出て行った。暫くは無い、と言っていたが、天人達の侵攻が思った以上に早くその足を食い止めなければ今後の戦況が大きく狂うということから、数日前に皆が出払った。
そして、戻って来た坂本と同朋達に、眼を見張らざるを得なかった。
たはは、と笑う坂本。その右手は赤に染まっており、健が掻き切られていることなど考えずともわかることだった。
茫然と開いた口から、息が洩れ出る。どうして、と呟くと、坂本は語った。
幕府共の負傷兵を庇って出来た傷、だと。
衝動的に坂本の胸倉を掴んで壁にぶつけた。苦しそうに顔を歪めた坂本が、真剣な面持ちですまん、と言った彼にこれ以上の叱咤はあまりにもはばかられた。
言葉を失って、手をゆっくりと離す。
「……君が、言ったんじゃないか」
「…………」
「今のこの状況で、私が重要な位置にいると。……それは、君も同じじゃないか」
「A」
握った拳が、ぶるりと震えた。食いしばった歯が唇を噛み切って、口端から血が流れたのを感じる。
坂本が、血だらけの右手を掲げて、そっと下ろした。彼が呑み込んだ言葉が一体何かは分からない。そして、その言葉が何なのか、追求なんてものをしようとすら思わなかった。今はただ、身を焼くようなどうしようもない遺憾に目を伏せる。
そんな使いようもない右手で、これから何をしようというのだ。持ち前の陽気さなど随分となりを潜めて、神妙な面持ちで彼はすまない、とでも言うようにああ。とごちる。
「もうこんなじゃあ、何も握れんのう。……わしは、戦争を離れる」
「……は、ぁ？ 剣が握れないって言うのなら、他を持てばいいじゃないか。君ならできるだろう、君だからこそ、できるんじゃないか。……私に戦場に残れって言ったんなら、君も、残るべきじゃないか」
「A」
坂本じゃない、違う人間の声に振り返る。銀時が、煤だらけの顔でそこに立っていた。
銀時の目を見ていると、激情の波が引いて行くのがわかる。顔を伏せて、ぶら下げた両手をきつく握り締めて、もうどうしようもない全てに、けれど納得がいかなかった。
坂本も、きっとわかっている。一体何を思い、考え、言葉を口に出しているのか。わからない筈が無い。そして彼を責める資格も無い。
「……本当に、すまん」
残酷な言葉だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 205人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (
レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした！更新応援してます！ (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります！次の話がとても気になります！面白いです！作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます！ (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ルアルア | 作成日時：2018年4月7日 3時
