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「それは……、どういう意味だ」
「怖いんだよ。いつか私は必要なくなって、戦場で、どこかもわからないところで、私、死ぬのかな」
瞼を閉じたAのそこから、すぅっと一筋涙が零れ落ちた。彼女の名を紡いで、安心させようと思ってもそれは逆効果だと思った。慰めの言葉は時として残酷なものになる。高杉は、自分は彼女を想う気持ちはあれど、陰った心を救える言葉を持ち合わせていないことを憎く思った。
Aは昔から、物事を難く考える癖がある。それは良いことでもあり悪いことでもある。
大きな力になることも多いが、その中で僅かに、Aを苦しめることもあった。思考に囚われてしまうのだ。
「A」開きかけた口を、そっと、くちびるで塞ぐ。触れるだけの接吻の後、視線が絡み合う。
「――俺は、俺だけは、お前の味方だ。心配すんな」
瞼を撫でてもう眠れと告げれば、Aは短く頷いてゆるりと瞳を閉じる。それから程なくして再び寝息が聞こえ、眠ったことを確認してまたくちびるを額に落とした。
「おやすみ、A」
布をかけてから立ち上がる。部屋を出て、すぐに出て来た夜空を見上げた。
Aは美麗な女になった。長く美しく伸びた黒髪と、きりりとした眼差しに凛とした雰囲気は、以前までどこか幼さすら感ぜられたのに、今となってはすっかり一人の女だった。
木が軋む音。振り返ると、しかめっ面をした銀時が立っていた。「寝てろっつったろ」銀時はぎろりと高杉を睨んで、急速に近寄ると高杉の襟を掴み上げた。
「Aに、何しやがった」
その眼を見て、高杉は、銀時を嘲笑した。怒り、嫉妬、悲哀。「見てやがったのか? いい趣味してるぜ」銀時は一層歯を食いしばって声を上げようとしたが、すぐ傍の襖の奥で眠るAを思い出してか苦しそうにあえぐ。その様は、熱と、痛み、悪夢にうなされ汗をかくAと酷似していらついた。
知っていた。あの銀時がたまにAを見ていることを。平然として、興味なぞ存在せんとしているあの銀時が、Aにだけ近付き、手を触れ、愛おしそうに目を見つめるのだ。
それが一番腹立たしい。
銀時を煽る高杉は、自信満々に彼を見下し嘲笑する。
「お前に、何ができた?」
「んだと……?」
「ガキの頃から一緒にいるからってよ、思い通りになるなんて、そんなわけねぇだろ」
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時