手の届かなかった、君へ tkin (ページ5)

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髙木くんだった。

制服は汚れていて、袖を捲って見える腕には少しかすり傷のようなものがあるけど至って元気そう。何かあったと見るに分かる見た目だったけど、みんな彼とは怖くて付き合わないので声をかける人は1人もいない。

「伊野尾くん」
「はい、」

真っ直ぐ俺のところに来た彼に初めて名前を呼ばれた。

「ちょっときて」
「え？」

急に腕を引かれて慌てて大ちゃんを見るとこちらに向けてウィンクをしていた。彼なりの「がんばれ！」なのは分かるが、そういう事を平気でするからあと一歩のところで彼女ができないのだと今度教えてやろう。

「ごめん」
「なにが？」

人気のない体育館の裏までやってきた。春の柔らかい日差しが心地よい。高木くんの綺麗に染まっている茶髪が日にあたってキラキラしている。

「朝、」
「あぁ！ううん、気にしないで。それより怪我、大丈夫？」
「このくらいどうって事ない」
「…いつも、こういう事してるの？」
「…まぁ、」
「そっか」

そこからお互い何を話すわけでもなく無言だった。
本当は喧嘩してほしくないなって思うけど、俺がそれを言う権利はない。

「あの、」
「んー？」
「えっと、」
「なに？」
「いや、どうしてここ、連れてきてくれたのかなって」

朝話せなかったからかな、とは思ったがそれを言う勇気が出なくて濁した言い方をしてしまう。我ながらずるい。