鬼は微笑まない

◆３８◆ 真昼SIED ページ39

初夏に入り、気温が急に上がる
春用の制服は少し着苦しかった

ふと、青々とした空を見上げた
この汚れのない景色を見てると
幼い頃を思い出してしまった

真『A！綺麗な花を見つけたの』

貴『花？私は興味ないけど』

たった一輪の花を見つけただけ
それだけで笑えたあの頃は消え
今では化け物に成りつつあった

あの頃からAは冷静だった
怪我をした私を治療してくれて
術がうまく行かなかった時など
励ましの言葉をかけてくれた
柊の中で、姉と妹は大好きだった

真「もう………取り返しがつかないか」

純粋に笑えたあの時代は消えた
二度と戻せない彼方へと消えた
あるのは、力への醜い欲望だけ
グレンと共に過ごせる世界へと
変えるためにこの道を選んだのが

真「A、元気かしら……」

私の計画を知りながら隠して
自分が危機に陥るかもしれない
そんな可能性を理解しながらも
私の道を否定せず受け入れたが

真「連絡、してみようかな」

Aの進みたい道は何だろう
柊暮人と共に生きる道だけか？
何か、他にもあるのではないか
あれほど優秀で恐ろしい天才が
簡単に手に入ることをするか？

それより、いつから鬼になった？
私達は人工的に生み出されたから
優秀であるのは当然のことだった
だが、鬼の力にいつ触れたのかな
彼女はいつ、変わってしまった？

真「………」

携帯を開いてアドレスを見る
"柊A"と登録された文字を
見て、どうしようか悩んでしまう

"柊暮人といるのではないか？"
"対策会議でも開かれているか？"
"睡眠の邪魔をしないだろうか？"
そういった心配が思考回路を巡る

それでも、声が聞きたかった
気付いた時には通話ボタンを
押していて、呼び出し音が鳴る

プルルルルル
プルルルルル
プルルルルル

一分近く待っても出てくれない
あぁ、やっぱり嫌われたのかなと
諦めて携帯を閉じようとした時…

貴［………真昼？］

少し驚いたような感じだったけど
Aは声を聞かせてくれた

真「お取り込み中だった？」

貴［いいえ、特に何もしていないわ］

嘘だ、何もしていなかったら
必ずワンコールで出るんだから
何かをしていたことは間違いない

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