鬼は微笑まない

◆１３◆ 真昼SIED ページ14

〈昨日〉

選抜術式試験週間が明後日から
始まる、この時を待っていた
私を苦しめた柊家を裏切る日だ
そして、グレンと一緒にいられる
世界を手に入れる

貴「嬉しそうね、真昼」

真「グレンのことを考えてたの」

私とAは一卵性双生児だった
だから、声も容姿もそっくりで
間違えられることも少なくない
でも、根本的に違うことがあった

真「ねぇ、Aには分かる？
好きな人と引き離される気持ち」

貴「辛い、と言うことなら分かるけど」

そう、Aは全ても持っている
生まれた時から欲しい物は必ず
手に入れられる、そんな女だった
好きな人とも引き離されなかった
そんな姉が、羨ましく憎かった…

貴「貴女が私を妬むのは構わないけど
それで何の特になるのかしら」

そう言われればそうだ
私が憎んだところで何もない
世界が私の恋を許すわけでもない
柊家が一瀬家を認めるわけでもない

貴「それに、貴女は柊を裏切る」

真「どうしてそう思うの？」

貴「グレンと過ごせる世界を作りたい
だから、百夜教と手を組むでしょ
鬼の力を我が物とするために」

全て見抜かれていた
それが、ひどく恐ろしく思えた
何も話していないのにバレたから
どうすればいいのか瞬時に考える
最速で事を済ませる方法はあった
目の前にいる女を殺せばいいのだ

貴「言わないわよ、勝手にしなさい」

ほら、また心を読まれる
何をしても姉には勝てなかった
私が考えていることの先にいる
先回りされて先回りされ続けるの
そして、この計画を見逃すと言う

真「どうして何もしないの？」

貴「どうせ、貴女はもう戻らない
最後の遊びくらい許したいわ
自分の責任は自分で取りなさい」

Aは冷たく言い放つと
哀れむような目でこちらを見て
僅かな気配も残さず去ってしまう

周囲から見ればとても冷たくて
人を見下すような女に見えるけど
本当は私達を見てくれているの
悲しい時や苦しい時は隣にいたの
涼しい顔をして慰めてくれるから

真「A………」

私も、あんな風になりたかった
鬼の力を完全制御できるように
欲しい物を手に入れられる力が…

◇１４◇→←◇１２◇

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す