033.「……手前には此処で」 ページ35
一瞬にして跳躍した際には、疑問すら無く身体の奥に湧き出る力を、手に持つ刀に流れ込ませる様にして縦に刀を振り翳す。
今度は入ったんじゃないか、と思える程には斬り込んだ心算だったが流石はマフィア幹部。中原は俺の攻撃を更に躱した。
其れでも躱される事は予測出来ていたので、更に一振り、二振りと中原に向かって追撃する。
椿姫の力が相俟って、最早超人的な疾さで追撃しているが中原は擦れ擦れで俺の攻撃を躱す。
だが流石に中原の方から攻撃する余地は無い様で、躱しつつも壁に追いやられて行っては、とうとう奴の背中が壁に中ってしまった。
「ッ……クソ!」
「ふふふ」
元より、中原を壁際に追い詰めるのが目的だった。
中原の動きは機敏としているが故、例え俺が椿姫の力と同化しても躱される事は百も承知。
ならば逃げ場を無くして追い詰めてしまえば、此方の間合いに成るので
だが一つだけ未知数なのは、此奴の異能力がどんな物か判らない。其の為、直に触れられる事を避けていたのだが__
如何やら中原は、今迄異能を遣わずに闘っていた事になる。異能を遣わずに此の動きを出来るのなら、よっぽどの体術使いなのだろう。
目の前に中原が居るにも関わらず、俺は頭の中で冷静に分析していた。頭でそんな事を考えていても『此奴を斬る』と云う意識は別にして、自分の手は刀を振り翳すモーションに入り、狙いは中原の首。
其れと同時に先程の出来事が、脳内を駆け巡って行く。
__中原に口付けされた、あの映像が鮮明に思い出された。
咄嗟に俺は其の場から後方に飛んだ。
身体中を駆け巡る、得体の知れないゾワリとした感覚が全身に廻る。身体の震えが止まらない。
「あ……う、ぁ………」
中原に口付けされた映像と、過去の顔も思い出せない下品な女共の恍惚とした表情が重なる。
云い様の無い気持ち悪さで口元を押さえた。少しでも動けば胃の中の胃酸が吐き出されそうで。
そして突然の俺の変化に、中原は当然見逃す訳も無く俺の元へ駆け寄る。
「……手前には此処で寝てもらう」
「やめろ! 来るなっ………!」
女の声を取り繕う暇も無く地声で声を張ると、中原は目を見開き、出し掛けた拳を寸前で止めた。
其の瞬間、俺の中の何かが身体の外に吹き出された。
「あああああああああああああああああああッッッ」
際限無く湧き出る何かが俺の全身を纏い、無意識に前を見ると太宰の姿が見えた気がした。
034.「流石なめくじ」→←032.「答える義務は無いので」
233人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:澪 | 作成日時:2016年6月12日 11時