011.「お前さ……」 ページ13
昼間の『うずまき』の一件然り__
敢えて明かすが、あの時も太宰はツケにする、との一点張りだった。ーーだが。
興奮する給仕に更に捕まるのが面倒だったから、俺がさっさと払ってしまったのが落ちだ。
俺は無職でも金に困ってる訳でも無いし、彼処で給仕にしつこく攻められても、其れこそ
そして太宰は懐から財布を取り出し、俺に見せる様に拡げた。
「心配しなくても、今は持ち合わせ有るから大丈夫だよ」
「何だよ、普通にあんじゃん。お前基本金無いんじゃねえのかよ」
「飲みに行く分ぐらいは有るよ。それに今朝は入水して、財布を川に流されてしまったから」
「お前さ……そんな頻繁に財布常備したまま入水してんの?」
「目の前に良い川が有れば、何振り構わず飛び込んでいるよ?」
「金欠の原因が其れかよ……」
国木田さんの話によれば、勤務中にいきなり居なくなったと思えば近くの川で流されていたり、太宰は入水の他にも色々と、自 殺方法を試しているとの事。
探偵社に入った時から此奴のスタンスは変わらないみたいで、最早探偵社の社員達は慣れてしまっているのだと云う。
俺は其処で“慣れ”と云うものがどんなに恐ろしいものか、再確認した。
此奴は会ったばっかの俺でも思える様に、確かに変人だしどっかネジがぶっ飛んでるのかもしれないが、
社員皆が口々に云うのは『太宰は変人だけど天才』。天才と云える程、聡明なんだと云う。
其れは俺も感じるが、頭脳の天才だと云うなら先刻挨拶した“江戸川乱歩”さんなんだと思う。
云えば彼は探偵社にとっては大黒柱で、凡ゆる難事件を一見しただけで見抜く。
ーーしかも一般人で。本人は異能が有ると思い込んでるが、実際は物凄い観察眼と洞察力で事件の真相を見抜くんだと。神憑り的な存在だ。
江戸川さんと違って太宰は、きっと操心術が人一倍優れている、と俺は思う。何だかんだ俺が此処に入社出来たのも、太宰の手腕によるものだ。
まあ、折角二人だけで飲みに行くのなら、太宰の事をちらっと聞いてみても善いかもな。
はぐらかされるかもしれないが、聞き出すのは俺の技量。ーー営業マンの出番だ。
やがて太宰の行きつけだと云う飲み屋に連れて来られ、暖簾を潜ると店員が出迎えて来る。
雰囲気の有る暖色系の光に中てられ乍ら、俺と太宰は奥の個室に案内された。
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作者名:澪 | 作成日時:2016年6月12日 11時