ー 誰そ彼 ー

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なんで、どうして


その言葉だけが頭の中を埋め尽くすけど


目的の駅についてしまった


S「っ…」


知りたい、でも知りたくない


その想いのはざまで俺はカバンを握りしめて電車を降りた


気になる、声をかけたい、でもなんて？


ぐるぐる考えながら後ろを見ないように


急いで改札を出た所で


「あのっ！」


声をかけられた


他の誰でもない、俺に向かって


足を止めて振り返ると


そこにはあの男の人が息を切らせて立ってた


「あの…っ」


俺と同じように困った顔をしていた


S「あの…」


気付いたら、俺も声をかけてた


「は、はいっ」


S「あの…、失礼ですが」


彼は俺の言葉を待ってくれた


S「俺たち…どこかで…」


「会ったこと…あります、よね？」


言葉が繋がる


自然と笑えてきた


S「そう！ずっと、電車に乗ってる時からなんか気になって」


「俺も。どこかとかは思い出せないんだけど…それでも絶対会ったことある」


S「不思議だ」


ふたりの間に夏の、あの田舎で感じた風が吹いた気がした


S「名前…」


「ん？」


S「名前、なんていうんですか？」


この科白も、どこかで…


「俺、智。君は？」


S「翔って言います。智…いい名前」


O「翔…いい名前だね」


その瞬間、言葉に出来ないけど


心で眠っていたものが目覚めた感覚


今までのモヤモヤがすべて晴れたような


そんな俺に彼も、智も気づいて


そして彼の目が潤んで、そしてその綺麗な目から


涙が一粒、流れたんだ


S「あの…」


O「やっと…っ」


、


やっと会えたね


長い間、待たせたね


、


O「この時代に、生まれてきてくれて…ありがとう」


、


、


※君のいない世界など おわり

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