記憶9 ページ9
翌朝、目を覚まし、本格的な調査へと移行しようとしていた
ふと昨日の事を思い出す
きっともう、彼、太宰治に会うことは無いのだろう
その事実はとても悲しいが、自分が招いた事態の為
尚更クヨクヨ出来ない
取りあえず、太宰治が誰かに話さなければ、私の正体はばれない
朝食を軽く取り、ホテルを出発する
久しぶりに横浜の街を散策する
調査は同時進行で進めるが、坂口さんにこの事実が知られたらただでは済まないだろう
だが、街を眺めたく思う気持ちや好奇心に負け、私はゆっくりと周りを見渡しながら歩を進めた
或る程度堪能して満足している時、丁度目の前にある路地裏に目がいった
其処で小さく男性が喋ったような気がした
「―――」
声が聞こえたが、内容までは聞き取れなかった
またもや、好奇心に負け(この場合は、危ないと分かっていたが)路地裏に入り、こっそりと声のする方を盗み見る
真っ赤に染まる路地は、暗くても分かってしまう
横たわる男性
そして、中央に立つ低身長の青年
中也だった
何故こうも知り合いと出くわすのだろうか
確かに今回の場合は私がいけない
だが、元相棒同士気が合うのだろうか、それともそう言う運命だったのだろうか
ピンチは何度もやってきては過ぎ、今回もまたピンチが来た
はぁ
急いで、だがゆっくりとその場から逃れるように動く
しかし
よく漫画とかであるように、こういう時に枝を踏むのはもはや恒例と言っても良いのだが、
只今絶賛そのような状態を起こしてしまった
つまりは、枝を踏み、ポキッという音が静かなこの場所でとても大きな音だったかのように鳴り響く
一瞬にして空気に緊張感が走る
「誰か、居るのか？」
中也が此方へ来る靴音がする
急いで異能力で猫を創る
前までは生き物を創る事は出来なかったが、今の私には創る事が出来る
異能力、”Vanish Revive”は本当に便利な異能だと思う
「ニャー」
と中也の目のまに猫を歩かせると、
「なんだ、猫か」と言う中也の声で緊張感が漂っていた空気が少し緩む
少し離れたぐらいで、異能力は消えない
だからこそ、今のうちにさっと逃げる事にした
今度は下に注意して
私は路地裏から姿を消した
出て直ぐに、メールの着信音が鳴る
開くと坂口安吾と書かれている
現在状況を送る事になっていたのをすっかり忘れていた
急いで調査結果を送る
勿論太宰さんの事も中也の事も送らない
送るのはただのバカだ
坂口さんを怒らせると仕事が倍じゃ済まないのだから
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