閑話 ページ48
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必死に自分を隠すようになった雅は、以前にもまして弱味をみせなくなった。
そんな雅の涙を初めて見た時が、あの時。
──俺が松陽先生の首を切った時だ。
高杉が左目を失い、雅が腹を刺された。その時、雅は涙を流しながらも、視線だけは前から離さなかった。
強い憎悪の目だった。
それから雅は意識を失った。腹の傷が致命傷だったのだ。
もしかしたら、雅が命を落とすかもしれない。
目を覚ましたとしても、恨み言を言われるのが怖かった俺は、逃げるように姿を消した。
それから、長い年月が経った。
俺はもう、雅の声も忘れてしまっていた。はっきりと思い出せるのは最後に見たあの泣き顔だけ。
そんな時だった。雅が俺の前に現れたのは。
花の綻ぶような笑みを浮かべる、あの頃の雅だった。
変わらない笑顔とすっかり伸びた髪を見て、もう女であることを隠さずに済むのだと安堵した。
以前の雅は、ずっと苦しそうだったから。
もう二度と、雅をひとりで泣かせない。
再会してあの笑みを見た時に、俺はそう己に誓った。
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作者名:p.m. | 作成日時:2024年3月14日 17時