浮世は風【銀魂】 (ページ4)

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坂田銀時は夢を見ていた。

その少女は、濡れ羽色の流れるような美しい髪を靡かせていた。
どうしようも無く綺麗なそれに、銀時は思わず手を伸ばした。

「なぁに？銀時。」

銀時の手は少女の髪を掴んでいて、違和感に気づいた彼女が銀時を振り返った。

「触っても良いけど、大事に扱ってね。髪は女の命なんだから」

そう言って少女は、花がほころぶような笑顔を見せた。

「髪は女の命」

髪を褒められると、アイツは決まってそう言った。その度に、心底嬉しそうな笑顔を浮かべて。

春の雨みたいな女だった。その恵みに肖りたくて、あの花のような優しい笑顔をもう一度見たくて、銀時は何度も髪を褒めた。

銀時は微睡みの中で濡れ羽色を見た気がした。少女の──雅と同じ、その美しい色を。

どうしてこんなに雅のことを思い出すのだろうか。

思えば、あの夕焼けを見た時からずっと頭を過ぎるのは雅のことだった。

そこまでぼんやりと考えて、ようやく思い出した。

今日は、雅の誕生日だ。

ぱちり、と目が覚めた。夜はすっかり明け、辺りを太陽が照らしていた。

二日酔いでガンガンと痛む頭をそのままに、銀時は勢いよく万事屋を飛び出した。

あの夢うつつの中で見た色は、雅は。

力のままにスナックお登勢の扉を開くと、カウンターに突っ伏して寝ているお登勢が居た。

「おい、バァさん！昨日、ここに髪が綺麗な女が来なかったか！」

「なんだい、朝っぱらから。･･･ああ、来たよ。アタシより先に潰れてたけど、もう帰っちまったのかね」

お登勢の言葉を聞くと、銀時はスナックお登勢を飛び出した。すると店の前にビニール袋を片手に持つ髪の長い女が立っていた。

「雅･･･か？」

「銀、時？」

雅が口を開くや否や、銀時は雅を思い切り抱きしめた。

「お前、生きて･･･」

「勝手に殺さないでよ」

桃の花のような、優しい香り。腰まで伸びた美しい黒髪。何もかも、あのころと同じだった。

死んだと思っていた。生きていたとしても、もう二度と会えないと思っていた。だから感情のままに抱きしめてしまった。

(でも、雅はきっと俺を恨んでいる)

瞼の裏に焼き付いている夥しい量の鮮血。それでも顔を上げてこちらを睨みつけていたあの目は、紛れも無く憎悪の目だった。

名残惜しそうに銀時はその身体を離す。悪い、と一言呟くと俯いて、雅から顔を逸らした。