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「・・・待ってな、今いい酒を出してやる。」
お登勢はそう言うとカウンターの向こうへ消えた。
「まったく、そういう事は早く言うもんだよ。」
お登勢は大きな酒瓶を片手に戻ってくると、雅の器に並々と酒を注いだ。
「これはアタシからの誕生日祝いだよ。好きに飲みな。」
「何も、聞かないんですか。」
自分の誕生日だというのに、雨の日に1人で酒を飲む人など数える程しか居ないだろう。
それなのにお登勢は何も聞かずにこうして雅に酒を振舞っているのだ。
雅は不思議だった。どうして見ず知らずの人の為にここまでしてくれるのだろうか。
「ここに来る客はワケ有りの客ばっかりでね。・・・言いたくなきゃ言わなくていいさ。でも、話くらいは聞いてやるよ。これも何かの縁だ。」
そのお登勢の言葉を皮切りに、雅は観念したようにぽつりぽつりとこぼし始めた。
「この着物は、母の形見なんです。お登勢さんの言う通り、私は裕福な家の生まれです。・・・とは言っても、江戸からは遠い田舎ですが。
幼い頃、厳しい花嫁修業に嫌気がさして家から逃げ出しました。私はお家のための結婚なんかしないって。
そうしたら、この通り。もう嫁の貰い手の無い、年増女になってしまいました。」
それ程酒に強くない雅は、もう既に酒が回っていた。思考もぼんやりとしていて、もはや自分が何を口走っているのかさえ、分からなかった。
「それで、この店に来たのは。私、人を、探していて・・・」
最後まで言い切ることなく、雅は潰れた。お登勢はそんな雅にそっと毛布をかけると、また1人で杯を傾けるのだった。
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作者名:p.m. | 作成日時:2024年3月14日 17時