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顔を真っ赤にさせた男──坂田銀時は、ネオンの光が輝くかぶき町を、千鳥足でふらふらと歩いていた。
時間は午後9時。かぶき町の夜はまだまだこれからだ。
なのに、銀時が既に出来上がっているのには訳があった。
万事屋を出て最初に目に付いたのは、鬱陶しい程の真っ赤な夕焼け。その燃えるような赤は、血を彷彿とさせるようでもあった。
まるで昨日の事のように思い出せる。
自分が殺した相手の、倒れていく仲間たちの、或いは己の身体から流れ出す、血。
その中でも一際心に根付いているのは、うつ伏せになった
(あー⋯やめだ、やめ。)
思考を断ち切るようにかぶりを振る。
こんな日は、酒に溺れて一時でも全てを忘れてしまいたい。
そういう訳で、まだ空の明るいうちから飲み始め、今に至るのである。
ふらふらと行く宛てもなく彷徨っていれば、ふいに雫が額に落ちた。
「ったく、雨なんてツイてねーな」
そうこうしているうちに雨は本格的に降り始めた。
なんだか生温いような雨だった。
何処かの店で雨宿りでも、と思い立ち、最初に目に入ったのは「スナックお登勢」の看板だった。
「よォ、バァさん」
「アンタかい。珍しいねェ、まだ早い時間からそんなに酔っ払って」
「酔っ払ってなんざねェよ。」
「良く言うよ。そんなふらふらの癖に。」
このスナックの女将、基、お登勢は慣れた手つきで銀時の前に酒を置いた。
銀時はお猪口を煽ると、空の器を見つめた。
「酔って何もかも忘れたい日ってのもあんだろ」
「そうかい。⋯久しぶりに見たよ、アンタのそんなツラ。」
お登勢は独り言のようにそう言って、煙草に火をつけると雨の降る外へ顔を向けた。
「今日は綺麗な夕焼けだったってのに、こんなに降るなんて・・・。これが春雨ってやつかい。」
「春の雨、か」
銀時は目を瞑り、黙ったまま雨音に耳を傾けた。
客は急に雨が降り始めてから慌てて帰ってしまったため、店の中には雨の打ち付ける音だけがただ響いていた。
お登勢が煙草を灰皿に押し付ける頃には、銀時はお猪口を片手に船を漕いでいた。
今日は雨が降り続きそうだし、客足も無い。店仕舞いをしようとお登勢が足を1歩踏み出そうとした時、ガラガラと音を立てて扉が開いた。
入ってきたのは小綺麗な装いの女だった。
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作者名:p.m. | 作成日時:2024年3月14日 17時