３話 ページ3
「え？」
唐突に名を呼ばれ、Aは面食らってヒソカをまっすぐ見上げた。
私、この人に名前なんか教えたっけ。クロロさんが話していたのかしら？
ヒソカは持っていた本をカウンターに置き、Aとの距離をぐっと詰める。
彫刻じみた、整いすぎた顔立ちが間近に迫り、Aは椅子の背もたれに背中を押しつけて半ば仰け反った。金色の瞳がぴかぴか光っている。琥珀みたいだわ。
「Aだよね。A＝オプファ」
「そうですが、ええと……」
助けを求めるようにクロロを見るが、彼も驚いた顔でふるふると首を横に振っていた。どうやらクロロ経由で知ったわけでもないらしい。ならばなぜ？
「覚えてない？ 『みっくん』のこと」
「え、……う、嘘っ？ まさか」
Aは思わず床を蹴って椅子を下げた。改めてまじまじとヒソカを観察する。
みっくん。
彼のことはよく覚えている。Aが小学生のときに出会った少年だ。
近所の公園でお腹を空かせて倒れていたのを発見し、祖父が持たせてくれたサンドイッチを分けてあげたのがきっかけで、会う度に話し込む仲になったあの子。
聞いた名前を元にあだ名をつけたせいで、あだ名しか覚えていなかった。
確かに、髪の色は同じだし、切れ長の目もそう言われてみれば面影がある。
しかし記憶の中の「みっくん」はあどけない紅顔の美少年であり、とてもではないが、今目の前にいる蠱惑的な美青年と同一人物とは信じがたい。
だが、全くの他人が「みっくん」を偽称したところで何の得があるというのだろうか？
「こんなところで再会できるなんて、クロロに感謝しないとね♥ またお店に来てもいいかい？ 話がしたいんだ♦」
「それは、ええ、もちろん……」
「ありがとう♥ じゃあまた近いうちにね♣」
ヒソカは来店当初の怜悧な空気からは想像もできない人なつこい笑顔を浮かべ、展開についていけないクロロを無理やり連れて店を出て行った。
かくいうAも、怒濤の展開に全く追いついていない一人である。
こんな小説みたいなこと、本当にあるのね。事実は小説より奇なりなんて言うけれど、まさか自分がその当事者になるとは思ってもみなかった。
Aはしばらくぼうっとしたあと、ドアプレートをCLOSEの面にひっくり返し、レジの精算に取りかかった。
いつも通りのことをしていないと、気分が落ち着きそうになかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
でぶき - 更新これから頑張って下さい!!🐼 (2022年6月11日 10時) (
レス) @page4 id: 804c35253a (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - くらげさんの新作、ずっと楽しみにしていました、！！ 長女たるものかくあるべし！の方は何度も何度も読み直させて頂いていて、文の書き方が本当に本当に好きです！お体に気をつけて更新頑張って下さい(´･･`)！ (2020年5月14日 15時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：くらげ | 作成日時：2020年5月9日 23時
