天才90 ページ42
『ゾムさん…………』
小さく呟いた私の声が届いたのかは分からないが、彼はニッコリと笑顔を浮かべて、ひらひらと手を振った。
「いやーお楽しみ中のとこほんま悪いなァ」
彼は素早く此方に歩み寄ってきて、私の二の腕を掴んで強く引っ張った。
ベッドから立ち上がった私は、勢い余って受け身も取れないまま彼の胸にダイブしてしまう。しかし流石は幹部といったところか。結構な勢いでぶつかったにも関わらず、彼の体勢は崩れるどころか微動だにしなかった。
すぐさま謝ろうとしたが、私はきゅっと口の端を結び沈黙を貫く。
_______ゾムさんの猟奇的なその表情は、私を黙らせるには十分な効力を発揮した。
勿論、私に向けられたものではないのだろうが。その証拠に、彼が私の身体を支える手は驚くくらい優しい。
「なぁAちゃん、その首の痣、グルさんにつけられたんよな？」
『え、』
よく気付いたなこの人。
薄暗い部屋で、しかも私に目配せしたのなんてほんの一瞬だった筈なのに。
『そう、です』
「他には何された？」
彼の口調は、普段の明るく表情に富んだものとは全く違い、冷徹と表現しても差し支えない程淡々としていた。
私はもはや思い出すのも憚られる記憶の糸を辿る。
しかし隠す気などこれっぽっちもなかった。
人目につく場所に痣を作られ、力づくで押し倒しては恐怖を煽り、それでもなお笑みを浮かべていた男を、どうして庇おうなどと思えるのだろうか。
『肩に…噛みつかれて、
…あと、その……口の中に指突っ込まれました』
_______ふわり、彼の掌が頭の上に乗る。
「………そか」
より一層低くなった彼の声を聞き、少しだけ、総統の命は大丈夫だろうかと心配になる。やはり少しはオブラートに包むべきだったかもしれない。
ｶﾞﾁｬｯ
「はい、援軍到着ー。絶対ここやと思った」
「せめて行き先くらい言えやゾム！」
「いやー、なんか面白いことになっとんなァ」
「あぁぁぁAちゃんこっち来るめう！早くグルさんから離れるめう！」
「どうする？アイツ。そろそろ消す？」
か、幹部全員集結しちゃった…
いよいよ総統の命が危ない。彼の顔をチラリと見る。_____どうしようもないくらい青冷めていた。
「…エミさん、悪いんやけど、Aちゃん医務室に連れてってくれんか」
「え…！？どっか怪我しとるんか！？」
「首にドス黒い痣ついとる。どっかのクズに絞められたんやろ。可哀想に」
室内を満たす殺気はますます色濃くなる。
私はそっと彼の冥福を祈った。
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暁 - あれ...grさんヤンデレ...？ (9月7日 17時) (
レス) @page38 id: 1fc9dc00b9 (このIDを非表示/違反報告)
紺 - マンちゃんの反応面白すぎる 天才90とか (2021年9月17日 22時) (レス) id: 194369b6a7 (このIDを非表示/違反報告)
かい - ラットさん、この小説大好きです！これからも無理をしないていどに頑張って下さい！これからも応援してます！ (2020年2月25日 13時) (レス) id: caec64c12b (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - Look What You Make Me Do 好きなんですが、どの辺りが似てる？んか気になります！ (2020年1月6日 2時) (レス) id: 83cb691048 (このIDを非表示/違反報告)
猫好き - しんぺい神さんが常識人に見えてくる…w (2019年6月6日 1時) (レス) id: fdca804d9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ラット
| 作成日時：2019年3月11日 0時
