天才83 ページ35
逃げた。それはもう逃げた。
今までこれ程必死に、しかも莫大な恐怖心を抱きながら走り回ったことがあっただろうか。いや、ない。断言できる。
現在私は総統に…いや、鬼に追い掛けられている真っ最中だが、今の状況はというともう絶望しかない。まるで一編の光もない暗闇を、あるはずもない出口を目指し駆けている気分だ。
走りながら端末で時間を確認する。あと７分。無理だ。いや、無理だ。既に息切れを起こしているこの身体で、あと７分間も全力疾走を保つなんて不可能に決まっている。
私は一番手近な扉のドアノブに手を掛けた。
こうなったら制限時間まで籠るしかない。
しかし次の瞬間、確かな手応えと共に訪れた不吉な予感。
『最ｯ悪…』
この部屋鍵かかってる。
私は半ば諦めながら振り返った。
あれだけ走ったというのにまだ体力が有り余っているのか？
彼の口元には依然として余裕の笑みが浮かんでいる。
黒手袋をはめた掌が私の身体に触れ______
_______る直前に、私は咄嗟に身体を捻ってそれを回避した。
無理な避け方をしたせいか若干バランスを崩してしまう。すぐに体勢を立て直して次は隣の部屋のドアノブを引く。
不意をつかれた総統の判断も流石に遅れたようで、宙を掴んだ手は１秒程虚空をさまよった。
この部屋なら絶対に鍵はかかっていない筈だ。
だってプレートに物置って書いてあるし。
結果は予想通りで、小さく開けた扉の隙間から素早く室内に身体を滑り込ませる。
勝機は見えた。
そう思った。
ｶﾞｯ
「粘るなァ」
彼の手が寸でのところで、閉じかけた扉を掴むまでは。
力勝負で大の男に勝てる訳がなく、呆気なく扉が解放されてしまう。
無駄だと知りながらも部屋の奥まで後退した。
わざとだろうが、ゆっくりと、時間をかけて総統が距離を詰めてくる。獲物に最大限の苦痛を与え、じわじわと殺す肉食獣のように。
ピタリ、総統が私の目の前でその足を止めた。
彼の手が伸びてきて、私はぎゅっと目を瞑る。
刹那、その逞しい身体に包まれた。
私は溜め息を吐く。今鏡を見れば、きっと私は苦虫を噛み潰したような表情になっているんだろう。
『やるなら早く、もう秒で終わらせてください』
「嫌そうだな」
その口調に含まれた僅かな愉悦を察知し、私はかなり不快な気分になる。
もはや胸中にあるのは絶望一色で、私はこれ以上無駄な痛みを感じないよう、感情を殺すことを決めた。
あぁもう誰でもいいからいっそ私を殺してくれ。
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暁 - あれ...grさんヤンデレ...？ (9月7日 17時) (
レス) @page38 id: 1fc9dc00b9 (このIDを非表示/違反報告)
紺 - マンちゃんの反応面白すぎる 天才90とか (2021年9月17日 22時) (レス) id: 194369b6a7 (このIDを非表示/違反報告)
かい - ラットさん、この小説大好きです！これからも無理をしないていどに頑張って下さい！これからも応援してます！ (2020年2月25日 13時) (レス) id: caec64c12b (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - Look What You Make Me Do 好きなんですが、どの辺りが似てる？んか気になります！ (2020年1月6日 2時) (レス) id: 83cb691048 (このIDを非表示/違反報告)
猫好き - しんぺい神さんが常識人に見えてくる…w (2019年6月6日 1時) (レス) id: fdca804d9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ラット
| 作成日時：2019年3月11日 0時
