天才76 ページ28
『…、』
私が何とも言えず黙っていると、「ほな、食堂行こ」とトントン様が言ったので、歩くのを余儀なくされた。
「なぁAちゃん、俺と１つ約束してほしいねん」
歩きながら、トントン様はそう言った。
彼の綺麗な黒髪が朝日を浴びてキラキラと輝いているのをぼんやり見つめながら、私は彼が次の言葉を紡ぐのをじっと待つ。
「絶対、１人で泣かんといて」
彼の血を輝かせたような瞳が、どこか悲哀に満ちていたような気がして、私はしばらくその瞳の赤から目が離せなくなってしまった。
「昨日、泣いてるAちゃん見て思ったんよ。この子は絶対１人にしちゃ駄目やって。
何でやろうなぁ……君は周りの人間より頭１つ…いや、５つくらい抜きん出て賢い子やけど……でもな、君はまだ子供なんやで。
何でも１人で抱え込まなくてもええねん。
辛いことあったら、好きなだけ周りの大人に頼って、好きなだけ利用したらええ。
だから…約束して？」
トントン様はすっと私の前にしゃがみこみ、片膝をついた。そして、小指を立ててこちらに差し出す。"指切りげんまん"だ。
私はどうしてか彼と目を合わせていられなくなって、堪らず俯いた。
『………私、約束って嫌いなんです』
まるで感情がないロボットみたいな、自分でも驚くほど平坦な声が出た。
彼は今どんな表情をしてるんだろう。
『守れる自信がないから』
私は暗に伝える。
その約束は交わせないよ、と。
「………そか、
じゃあ約束はせんでええよ。
その代わり、俺がさっき言ったことはなるべく忘れないようにして、ほんで時々思い出してほしい。
君が涙流す理由を無理に聞き出すようなことはせんから。な？」
私は、昨日自分自身がこの人に向けて吐いた言葉を脳内で再生した。
______"理由…は、言えません"
貴方たちを拒んだのは私なのに、まだそんな優しい言葉かけてくれるんだね。
お人好し。
『…分かりました』
彼は満足気に微笑んで、そしてまた私の頭を撫でる。
再び歩き出した彼の広い背中を見て、何故か物凄い不安が波のように押し寄せてきた。
それは耐え難い程の激情で、私は咄嗟に、思わず彼の名前を呼んでしまう。
『_____トントン様、』
「何？」
『あ、の……………私、、…』
私が突然いなくなってしまっても、
貴方は私を許してくれますか。
喉元まで出かかった言葉を寸でのところで押し殺す。
『…な、何でもないです』
訝しげな表情を浮かべる彼を横目に、冷や汗が一筋、私の顔の輪郭をなぞった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1414人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「軍パロ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁 - あれ...grさんヤンデレ...？ (9月7日 17時) (
レス) @page38 id: 1fc9dc00b9 (このIDを非表示/違反報告)
紺 - マンちゃんの反応面白すぎる 天才90とか (2021年9月17日 22時) (レス) id: 194369b6a7 (このIDを非表示/違反報告)
かい - ラットさん、この小説大好きです！これからも無理をしないていどに頑張って下さい！これからも応援してます！ (2020年2月25日 13時) (レス) id: caec64c12b (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - Look What You Make Me Do 好きなんですが、どの辺りが似てる？んか気になります！ (2020年1月6日 2時) (レス) id: 83cb691048 (このIDを非表示/違反報告)
猫好き - しんぺい神さんが常識人に見えてくる…w (2019年6月6日 1時) (レス) id: fdca804d9b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ラット
| 作成日時：2019年3月11日 0時
