8-一難去ってまた一難 ページ9
_____『さっきは助けて下さって、本当にありがとうございました』
場所は移り、ナギサジム前…高架橋にて、私は彼に深々と頭を下げた。
「止してくれ。礼を言われるようなことは何もしていない」
その言葉に恐る恐る顔を上げれば、彼は先ほどの…ギンガ団と対峙していた時の迫力とは打って変わり、少しぎこちなくて、でも優しい笑みを口元に浮かべていた。私を見下ろす瞳にも、いつの間にか柔和な光が宿っている。
彼はジャケットに突っ込んでいた手を出して、私に伸ばした。
「俺はデンジだ。何あれ、君が無事で良かった」
『…!申し遅れました。私はAと言います』
その手をしっかり握り返し、ようやく私の頬も自然と緩む。
姿勢を正した私は、今までは暗がりで良く見えなかった彼の容姿を、改めて詳細に眺めた。
真ん中に切れ目の入った、凡そVネックに近い黒のシャツの上に、真っ青な波を重ねた海みたいに、深みのある青色をしたジャケットを羽織っている。
染色か地毛かは分かりかねるが、ビビットなカラーリングの髪の毛は月明かりを仄かに反射し、解放感のある瞳の色はまるで稲妻のようだという印象は、些かも変わらない。
精悍な顔立ちをした彼は見上げるほど身長が高く、そこで私は初めて彼が、優れた容貌をした若い男性であることを知った。多分、歳上の。
「そうか、A____って呼んで良いか?」
『はい、デンジさんってお呼びしても?』
「勿論。あと、癖じゃないなら、あまり固過ぎる喋り方でないと嬉しい。…この辺じゃ見ない顔だけど、観光客か?」
『ポケモントレーナーの端くれとして、旅してます。て言っても、この間故郷のノモセを出たばかりなんですけどね』
彼はフランクな感じで高架橋の塀に背を預け、私に顔を向け直す。彼の瞳に少し好奇の色が滲んだのを、私は見逃さなかった。
「ふぅん、あの大湿原か…トレーナーとして旅をってことなら、ジム巡りを?ナギサジムは一応最終ジムに指定されてるが…真っ先に此処へ来るなんて変わってるな」
ずばりと言い当てられ、誤魔化すように髪を弄る。
『まぁ…。デンジさんはナギサシティの方なんですか?』
「あぁ、生まれも育ちも此処で____って、
冷えると思ったらもう大分遅いな…。俺の話よりも、暗いし宿まで送って行く。何処だ?」
『へ?』
「だから、宿泊先」
…あ
『あぁああ…!』
腹の底から、悲痛かつ控えめな声が飛び出し、一気に血の気が引く。
しまった
夕暮れ時ナギサシティに着いてすぐ、あんな連中の相手をしたせいで
『ホテルの予約…取ってない!』
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作者名:Dac | 作成日時:2022年3月15日 20時