【ポケモン】晴天の私、或いは霹靂の貴方【デンジ】 (ページ6)

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5-杞憂に終わるページ6

あのレントラーがトゲキッスを守ったのは明白であった。

…なら、もうすぐ地に足付けるガブリアスは、一体何の為にトゲキッスの背から飛び降りた____？

じっとりと汗の浮かぶ掌を握りしめ、俺が逡巡している間に、ガブリアスは研ぎ澄まされた鋭い爪を丸めた。自身の両足が地につくよりも前に、その拳を地面に叩き落とす。

自らの体重と、トゲキッスの背から降下した際の重力を上乗せした____それは高火力の"じしん"であった。

ニャルマーやデルビルは勿論、落雷に焼かれ地に伏せたゴルバットたちも、とどめとばかりの手痛い攻撃を浴び、恐ろしい地面の鳴動が止んだ頃、立ち上がるポケモンは一体もいなかった。

彼女の従える者達を除いては。

______力が抜けぶらんと垂れ下がる俺の左腕が、誰かの指に弾かれたみたいに動いた。それは筋肉の痙攣に近い小さな動きだったが、それを皮切りに、ようやく俺の思考はまともに回り出す。

…凄いバトルだった、と。

「はっ…」

月並みな感想しか浮かばない自分の陳腐さに、俺は思わず失笑する。

それでも頬は熱く上気し、痺れる程に強く握り締めた拳の震えは止まらない。

あの娘の声を辿った先で、多対一のバトルが目に入った時は、ジムリーダーとして_____というよりは、最低限の道徳心を以て少女を背に庇うつもりだったが。

情けないことに、当の俺は声の一つも出せずにいる。

精々彼女の手持ちの布陣を、彼等が繰り出す技の理屈を分析する程度しか、俺に役目は無かった。それ程までに、あの数のトレーナーを、そしてろくに躾られていないと見える凶暴なポケモン達を圧倒した。ジムで少女の激昂を聞いた際の俺の心配は、見事に杞憂に終わったと言える。

もはや自分が何故あんなに焦ってジムを飛び出したかなど忘れ、少女の引き締まった声と、ポケモンに指示を出す細い指先に

俺は。

"退屈"なんて言葉が砂塵と化した事にさえ気付かず

ただあの女トレーナーに瞳を縫い付けられていた。

"何しろ彼女はたった3体にしか命令を出していない"

そこで俺は、思い出したかのように溜めていた息を吐く。

冷たすぎる風が、今はこんなにも心地好い。
煮え滾る血液に温まる身体と外気温の寒暖差に、身体中から汗が噴き出して。

興奮故か寒さ故か紅潮した頬を手で抑え、幾何年ぶりに俺は、自身の心臓が熱く鼓動していることを自覚する。

指先が凍傷を負うのも厭わず、氷のように冷えた高架橋の塀に手を置き、まだ名も顔も知らない彼女が蹴散らした、集団の悪意の残骸を、今一度高みから見下ろした。