【ポケモン】晴天の私、或いは霹靂の貴方【デンジ】 (ページ4)

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3-杞憂に始まりページ4

何を言っているかまでは流石に聞き取れなかったが、半ば絶叫に近いあの女の声が、或いは悲鳴だったら…と背中に冷や汗が滲む。

いつもと同じ、ポケモンジムと街の改造作業に明け暮れる筈だった今日は、一日の終わりがけであるこの夕暮れ時、唐突に引き裂かれた。

追随するレントラーの足音を背に感じながら、俺はなにか厭な予感に疼いた奥歯を噛み締める。

「杞憂であって欲しいもんだな…！」

「ちょ、デンジさん！？どうされました！？」

帰り支度をしているジムトレーナーの制止の声も聞かずに、俺はジャケットに袖を通して、腰にくくり付けたモンスターボールが揃っていることを確認する。ジムの自動ドアが開くのでさえやけに怠慢に感じられた。

通りに飛び出た俺は立ち止まって耳を澄ます。近くの住宅街から漏れ出す人の気配やポケモンの鳴き声、そういった家庭の音ではなく。あの非日常的な声の手掛かりを。

「………？」

この海風の冷たい街がしんしんと冷え込む音しか_____

風除けに青いジャケットの襟を立てて、二、三歩歩いて、再び注意深く辺りを見渡す。

しかし、誰もいない。街灯に明るく照らされたソーラーパネルが敷き詰められた高架橋、高低差の激しい地形をした街の、その断崖の果てまで。

「気のせい…だったのか？」

そんな可能性が頭を過り、途端に緊張感が少しばかり緩和して、ともすれば剥き出しの頬が刺すような空風に痛み出す______その時だ。

複数人分の衣擦れの音と息遣い、そして

冷静さを欠いたポケモンの荒々しい鳴き声を、俺の鼓膜は拾った。

慌てて、日も暮れたこの時間帯にしてはやけに騒がしい、街の高架下を覗き込む。

上からだとよく分かる。一様に同じ格好をした、妙な男の集団が円を描くように"何か"を取り囲んでいること。

そして、そんな男たちから隙なく"何か"を守るような布陣で、円形に背中合わせで並ぶポケモンたちが、敵愾心を剥き出しにして男たちを睨め付けていること。

その全ての中心に______一人の少女がいること。

暗闇では顔立ちまではっきりしないが、夜鴉色の髪が月明かりに縁取られ、彼女の存在を控えめに主張していた。

取り囲まれて尚、逃げも隠れもしない

その不利な事実を歯牙にも掛けない、
背筋の伸びた堂々たる姿勢に

俺の目は、暫しその娘に釘付けとなる。