09 お姫様 ページ9
優しい風が吹き抜ける。新はまだ寝たまま起きる気配はない。
隼「…世界の鍵には寿命が存在するからね。君はひとつ前の鍵を持った者の継承者だね?僕はその以前鍵を持っていた者に会ったことがあるんだ」
『…そう、なの…?』
隼「そう、君がこの名前を呼んで懐かしい気持ちになるのはそのせいだ。だけど…その鍵を持った者もすぐにいなくなってしまったのだけれど」
そう切なげに呟いた彼の瞳は泣いていた。涙は溢れていないのに泣いていた。寂しそうに笑って頭をぽんぽんと撫でてくれる。
『…寂しかった…の?』
隼「どうかな?僕はそんな感情をそのときは知らなかったんだ。だけど…」
『…だけど』
隼「誰かがいなくなってしまうのは、とても胸の奥が痛くなるような気がしたよ」
その濡れていないペリドットの瞳に優しく触れてあげると、瞳を閉じた彼の瞳から一粒涙が溢れた。
『隼…?わたしはいなくならないよ』
隼「…そうだと、とても嬉しいのだけれどね。君には寿命が存在する。死ぬことができるんだ。僕は死ねない」
『…しゅ、ん…?』
隼「そんな君たちが愛おしくて羨ましいよ。今を生きている君たちが…とても羨ましい」
もう一度切なげにきれいに笑った彼。その笑みはあまりにもきれいすぎて今にも壊れてしまいそうだった。
隼「…僕の大切な鍵を持つお姫様?僕はまた君に会いにくるよ。そのときは…また抱きしめてもいいかな?」
『…もちろんだよ』
隼「ありがとう。また…会おうね」
まるで雪のように…切ない冷たさだけを残してわたしの元を離れていく。どうしてあんなふうに笑うのだろう。とても大切な人のような気がするから…放っておけない。どうしたらいいんだろう。そんなことを考えながらその背中をわたしは見送ることしかできなかった。
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衣里(プロフ) - 初めまして、全作品読ませて頂きました、懐かしくて涙が出てきちゃいました、紅縁、スクレボ、サバコレぜひとも書いて欲しいです。これからも頑張ってください (2019年10月6日 7時) (レス) id: a37957c804 (このIDを非表示/違反報告)
mel(プロフ) - みほさん» ありがとうございます。機会があれば書いてみたいなと思っていますが、円盤が出てからになるかと思います。申し訳ございません。 (2018年11月25日 19時) (レス) id: cd9818e417 (このIDを非表示/違反報告)
みほ(プロフ) - 初めまして。いつも楽しく読ませていただいてます。紅縁のストーリーを小説化してください。 (2018年11月24日 20時) (レス) id: 40d86cc87b (このIDを非表示/違反報告)
mel(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!更新はゆっくりですがまた遊びに来てくださると嬉しいです!お待ちしております。 (2018年9月22日 17時) (レス) id: cd9818e417 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - melさんの作品全部大好きです。また新作の更新常に楽しみにしてます!!無理せず頑張って下さい! (2018年9月20日 23時) (携帯から) (レス) id: 11be993efd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mel | 作成日時:2018年7月30日 23時