僕の願いは誰にも言わない

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○green side○

「すぅくん、出ないや。

充電切れちゃったみたい」


丸ちゃんがキッチンでしょんぼりしてる。


大事にしてるジッポがソファーに落ちてたからって
さっきからアイツに電話架けてたけど



繋がるわけ、ないと思うわ。
電源、敢えて切ってるんちゃうの？


だって…なぁ。



「仕事なんやろ？明日にしたり。邪魔したらアカンで」

ひなちゃんに言われて

「はぁい。これじゃないとタバコ不味くなるって言うのになぁ」

渋々スマホとジッポをポケットに入れる。



「あ！そうだ。プリン食べる人ぉ」

手挙げたのは、俺とひなちゃん。
いつも真っ先に返事するオトンは難しい顔してTV見てる。

「きみくんはいらんのぉ？」

「へ？」

丸ちゃんに言われて口開けたまま振り向いた。

「あ、すまん。ぽやっとしとたわ」

「ふふふ。

せっかく作ったのにすぅくん、食べないで帰っちゃったし、きみくん２つどうぞ」

テーブルの上に、丸ちゃんお得意のプリンが並ぶ。
オトンが大好きだからって小学生んときに俺と一緒に練習したっけ。

「ん…あんがと」

いつもならひとくち食べて

「んまぁいっ！丸子は天才やなっ！」

大袈裟なくらい喜ぶくせに、今日は眉間に皺寄せて



「なぁ、丸子は渋谷くんでええんか？」



って言うた。



「うちに来たのに、仕事が忙しいからって…
こんなに美味いプリン食べずに帰るようなヤツが…

丸子を幸せにできるとはどーしても思えん」


オトンは丸ちゃんにはやたら甘くて、今まで何事も反対せんかった。
やからあんなヤツでも受け入れるって思うてたのに。




丸ちゃんは、ちょっと悲しそうに微笑んで


「…ごめんね、きみくん。ありがと」


それだけ言うて、プリンをパクパク食べて


「ご馳走さま！今日のプリンも合格！」


バタバタと自分の部屋へ走って行った。



「ヨコ…」


ひなちゃんがオトンの背中をそっと撫でる。
俺たちとケンカしたときは、いつも、そう。


「ひなちゃん、ごめん」

「大丈夫やて。丸子やてわかってる」





俺は牛乳あっためにキッチンへ向かう。




丸ちゃんが好きなホットミルク。




明日は一緒に買い物へ行こう。

観たがってた映画が封切られたみたいやし。



小さな鍋。バニラエッセンスをひとふり。




丸ちゃんはいつもバニラみたいな匂いがする。

甘くて幼い。

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