【歌い手】KISS【luz】

kiss42 ページ42

「え、何あの後そんなことあったん！？」


そーなんよー。

と携帯の向こう側から答える伊織の声には、

緊張感というものがまるでなかった。


「でも、ごめん。俺が一緒に教室まで帰ってれば

　そんなことにならずに済んだのに。」


そう言えば、

「いやいや、そのおかげであの子たちと和解できたわけやし？

　むしろ感謝やなー。」


と何とも伊織らしい答えが返ってくる。

しょーがない子だなー。と苦笑を漏らしつつ、


そんな前向きな考えを持てることに少しあこがれもある。

伊織は無意識で人を引き寄せるのかもしれない。


前は少しかわいい子だなーくらいに思っていたから特に興味はなかったけど、


親しくなってからよく伊織がかわいいと男子が言っていることを知った。


初恋だと言っていたし、

まだきっと、恋愛に対してよく分からないことが多いだろう。


だから、たまに不安になる。


伊織が、するりと俺の腕を抜けて、

どこかに行ってしまわないかと。

kiss43→←kiss41

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す