廉直教師と元上司【文豪ストレイドッグス】 (ページ9)

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噺.8 ページ9

再びその部屋からピアノの音色が零れる。

その音は悲しい音だった。

ピアノが、泣いていた。

「ショパン、幻想即興曲、op66…」

「中也さん。居たんですか。」

真紅のグランドピアノから手を離し、体を壁にもたれかけている中原の方に向けた西條。

「手前ｪ、なんて悲しい曲を弾きやがる…。」

「……気分、ですよ。」

部屋の隅にある太宰のヴァイオリンに目をやると悲しそうな目付をした。

「リクエスト、聞きますが？」

「はっ。そう来なくちゃな。」

そう言うと西條はピアノに向き直る。

「クライスラーの愛の喜び…それだ。」

「私が愛の悲しみの方が好きって知ってて言ってます？」

「はは、偶には明るい曲もいいだろう？」

真紅のピアノには生き生きとした西條が写っていた。

そこに本来ならあるヴァイオリンが加わったらどれだけ素敵なものだろうか。

だが、今はそんなもの無くとも素敵な、美しい音色が部屋中に澄み渡っていた。

音楽が、ピアノが、西條が、全身で愛の喜びを表現している。

まるでその音色は玻璃の様だった。

ポートマフィア幹部候補＿＿＿西條八十。
異能力『一握りの玻璃』

「この曲は、貴方に捧げますよ。中也さん。」

「はっ、お前らしいな。」