噺.18 ページ19
「『何故、野ばらは枯れたのでしょうか？』」
まるで何かに侵食されているように未明の額に漆黒の模様が浮き出て、自我がある様には見えなかった。
その上途轍もない殺気を放っている。
『び、未明!!』
異常を感じ、未明に近寄るAを拒むように茨が道を塞ぐ。
「せ、んセ…殺、して…」
一瞬、茨の動きが止まった。
未明の額に涙が伝う。
「あはははは!!!!」
次の瞬間、茨が未明に巻きついた。
やがて真紅に染まった薔薇の花が咲き始める。
「不味い！」
何か不吉な予感を感じた太宰が駆け出す。
まるで生命が亡くなっていくように薔薇が徐々に枯れていく。
間に合わない。
そう思い太宰が手を伸ばした時だった。
「未明……安らかに眠りなさい…。」
太宰の肩に触れた人がいた。
『西條さん…？』
未明の異能が解ける。
それと同時に未明の身体が薄れていった。
『一体どういうこと…。』
「未明は私の異能。どの道、あの子は無効化されれば消えるのですよ…。」
ゆっくりと未明に近寄る西條。
「重い任務任せちゃってごめんね。辛かったよね。苦しかったよね。」
「さいじょー、さん。」
未明を優しく抱きしめ、頭を撫で、まるで幼子をあやすかの様に優しく声をかけている。
「未明、有難うね。もう、大丈夫だからね。」
「う、うん。さいじょーさん、こそ、有難、う……。」
未明は笑いながら消え去った。
その雰囲気をぶち壊すかのように太宰が怒りを震わせ声を掛ける。
「一体どう言うことだい、八十。君が、あの子に任務を…」
「いいえ。彼女の本来の任務は"太宰の捕縛"。抹殺なんて命令してないわ。詰まりどの道この子は裏切り者扱い。」
『でも、そうしたら西條さんは今度は貴女が裏切り者扱いに…』
「ならないわ。」
凛とした瞳を向ける西條はゆっくりと立ち上がり、ボロボロの教室の中、太宰達と向き合う。
「何故なら私は首領の命令で未明を止めに来たから。」
ちらりと視線を教室の入口に向けると、そこには中野が立っていた。
「首領より、太宰の捕縛は今回は無しだそうだ。ゆっくり話すといい、西條。後で迎えをよこす。」
その言葉だけ残し、去ってしまう中野。
流石マフィアの首領補佐と言うだけあって、素早い動きだった。
『西條さん、未明は、未明は……』
Aは言いたい事が突っかえ、震えていた。
太宰は立つのも儘ならないAを支えている。
「未明は、もう私には創り出せません…。そして、私の異能もこれきり。」
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