第32夜。 ページ32
「胡蝶、何用だ。」
「お茶菓子のおすそ分けに。ところで何を思い悩んでいるんですか、朝霧さん?」
屋敷の縁側に1人座る朝霧の隣に寄り、胡蝶は腰をかけると、朝霧の顔を覗き込んだ。
そこにもう、先程までいた不死川の姿はない。
あの後。
不死川は手当が終わったあと、礼を述べるとすぐに去ってしまった。
〈俺は、何も聞かねぇ。涼雅さん、もっと、俺らの事、信用してください…ッ。〉
たった一言を残して。
その一言が、朝霧の脳に深く刻みつけられる。
「まぁ、そんな事が。」
「信用、なんて考えてもいなかった。」
あの日、吉原で伊黒に全てが知られてしまった日まで。
多くの柱達と朝霧の間には距離が、溝があった。
何者かも分からない朝霧の事を多くの者が憧れ、それ故に距離を置いた。
その関係に名前などない。
「ただ、怖かった。これ以上、失う事が。」
そして、あの日の光景が。
朝霧は思い出した。
自分の人としての最後の日を。
己の師範である雨月を失った日を。
「これから、ゆっくり前に進めばいいんじゃないでしょうか。」
「胡蝶……?」
胡蝶は朝霧の後ろ側に回ると、背中を預けるように寄りかかった。
「私も貴方のことを頼ってます。そして朝霧さんも私のことを頼ってます。そして時透君とだってそうでしょう。彼は兄のように朝霧さんを慕い、また朝霧さんも彼を弟のように愛でる。信頼の仕方なんて沢山ありますよ。」
ただ、私達、お互いを知らなさすぎただけなんです。
胡蝶はそう付け足す。
「焦らないでください。私達、まだこうやって傍にいるじゃないですか。ねぇ、朝霧さん。」
ほんのりと、胡蝶から藤の花の匂いがしたことを朝霧は感じ取る。
〈________涼雅。〉
ふと雨月と重なって感じたのは気の所為だと、心にしまい、朝霧はそっと、己よりもはるかに幼い少女の手に己の手を重ねた。
「お前も、無理をするなよ。」
「あはは、説得力ないですね。」
「……うるせぇ。」
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天麩羅 - わわわ更新されてるぅぅううう!! (2020年3月15日 22時) (レス) id: eb9a0c61ed (このIDを非表示/違反報告)
天麩羅 - わぁーーーぁああああ!面白いぃぃぃぃいいいい!更新頑張って下さいぃいい!! (2020年3月14日 22時) (レス) id: eb9a0c61ed (このIDを非表示/違反報告)
小坂谷 真夜(プロフ) - いおりさん» ありがとうございます。そのようなお言葉本当に嬉しい限りです。 (2020年2月1日 22時) (レス) id: 79a8fd2e1c (このIDを非表示/違反報告)
いおり - めっちゃどタイプの小説きたーーーっ、これからも期待して待ってます。更新頑張ってください (2020年1月12日 14時) (レス) id: bce55b4438 (このIDを非表示/違反報告)
小坂谷 真夜(プロフ) - mo4さん» コメントありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。 (2020年1月12日 13時) (レス) id: 79a8fd2e1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小坂谷 真夜 | 作者ホームページ:@lotus_1022
作成日時:2019年9月9日 22時