5ページ目 静かな夜を ページ6
ユウリのお葬式は粛々と執り行われた。昨夜、俺たちが到着する前に通夜は終わっていたらしく、その翌日の午前に、俺たちはユウリと最後のお別れをした。
「…このバカツ丼。なんで笑ってんだよ」
ユリオが力なく呟く。その視線の先にあるユウリの顔には、確かに笑みが浮かんでいた。それでも本当に死んでしまったのだと思わせる血の気のない顔や、ピクリとも動かない表情が、どことなく怖かった。
涙を流すマーマの肩をパーパとマリが支える。マリは必死で涙を我慢しているように見えた。
参列したのはユウリのリンクメイトだったピチットを始めとしたスケーターたちと長谷津の皆だ。その場にいるほぼ全員が涙を流していた。
(ユウリ、ちょっとのお別れだ。天国でもスケートするんだろう?体重管理、ちゃんとするんだよ。子豚ちゃんはすぐに太っちゃうんだから。ねえ、ユウリ……)
ユウリの手の中にメッセージを書き綴った手紙を持たせる。本当はスケート靴や指輪を入れておきたかったんだけど、金属は入れられないということで断念した。そのかわりが、この手紙だった。
(ユウリ、Спокойной ночи)
おやすみなさい。静かな夜を。それだけを願って、閉じられていく棺を、その中で眠るユウリを見つめていた。
火葬が終わって、炎の中から出てきて箱に入れられたユウリはとても小さくなっていた。その箱をお墓の中に入れて、手を合わせてから俺たちは家に戻った。
その日は皆近くの宿に泊まるらしく、ゆ〜とぴあかつきに泊まるのは俺とユリオ、そしてヤコフの三人だけだった。
眠れない体を無理矢理寝かし、次に目が覚めたのは少し霧がかかった早朝だった。
(ユウリに会いに行きたいな)
そう思い立てば行動を起こすまではそんなに時間はかからないもので、使っていた布団を片付けて、朝早くから起きていたマリに外出の旨を伝えて、玄関から飛び出した。
ランニングついでに、と言った様子を装い、墓場まで一直線に走る。坂の階段を上り、寺の中に入る。
ユウリのお墓は、手前から5列目の左から6つ目。
ざり、ざり、と自分の靴が地面をこする音が響く。手前から5列目を曲がり、一直線上に並ぶお墓を視界に入れて、そこではじめて気づいた。
(誰かいる…?)
霧に隠れて顔がよく見えないが、黒いコートを着ている男のようだ。立っている場所は…
(ユウリの墓の前!)
急いでそちらに駆け寄って、顔が見える位置で足を止めた。
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか? (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです!これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします! (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます!引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました!そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです!更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします!頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西 | 作成日時:2017年11月25日 3時