4ページ目 露命症候群 ページ5
露命(ろめい)症候群。別名、ティアドロップ・シンドローム。
「ユウリが?」
それは、今から約20年前に広まった病気だ。血液中にある何かの成分と他の成分が合成されて、それが血液中の成分濃度を高くすることが原因として知られている。というのがヴィクトルの知識だ。
ここまで社会的に有名になると、興味のない情報がヴィクトルの耳に入ってくることもある。ティアドロップ・シンドロームもその内の一つだった。
その症候群の特徴はいくつかある。
予防は簡単だが、既に持ってしまった場合は為す術がないこと。患者は成分の濃度から大体の寿命が分かること。その成分は死亡1日前から1時間前あたりに涙として放出されること。
「…勇利君は生まれたときから、いつ自分が死ぬか分かってて…。だから、滑ってるとき、いつも悲しそうだったんだ」
声を震わせながらなんとか喋っていたユウコは、一度大きく深呼吸をして、それからロシアの友人に笑顔を向けた。
「二人が一緒に滑ってくれて嬉しかったんだと思う。最初は勇利君、死ぬ一年前には引退して、ゆ〜とぴあかつきを手伝うって言ってたから。スケートを諦めなくてよかったって…笑ってた」
ごめんね、ありがとう。
そう言い残して、ユウコたちは家に帰っていった。
(…謝罪もお礼も、貰うべき人間じゃないのに…。むしろ有利と一緒に過ごす時間を奪ったことに非難されるべきなのに)
グランプリファイナルでのFP前日のホテルで引退すると告げてきたユウリ。あの時ユウリは何を思っていたんだろう。
全てが、もう遅い。
「皆、カツ丼食べんね。それで、もう遅いから温泉入って」
ひょっこりと顔を出したのはユウリのパーパだ。お言葉に甘えて、カツ丼を食べて、温泉で体をあっためて、ユリオとヤコフと並んで敷かれた布団に潜り込んだ。
「…カツ丼、旨かったな」
「…そうだね」
ユリオはそれだけ言って、そのまま話さなくなった。
目を瞑っても寝れなくて、じっとしていると今までのことが次々とよみがえってきた。
勇利と出会ってからは驚きの連続だった。白黒の世界に色を吹き込んでくれたのは、紛れもないユウリだ。コーチとして帯同するだけでも心臓が破裂しそうなことを初めて知った。生徒が良い点を出すと自分のことのように嬉しかった。
どうやら、二つのLをくれたユウリは、もうこの世にいないらしい。
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか? (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです!これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします! (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます!引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました!そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです!更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします!頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西 | 作成日時:2017年11月25日 3時