29ページ目 前奏曲 ページ30
はっきりと見えた。Aの首にかかっていたチェーンの先にあったのは、ユウリとのペアリングだった。
(ユウリが見ている)
グランプリファイナルの日、六位を取って悔し気に顔を背けたユウリ。
バンケットで「びーまいこーち」と笑ったユウリ。
日本で初めて会った時、いかにも驚愕しました!と言う顔で温泉に駆け込んできたユウリ。
カツ丼が僕のエロスだ!と多少自暴自棄になっていたユウリ。
リンクの上で、絶世の美女に変身したユウリ。
離れずに傍にいて、と泣いたユウリ。
そうして挑んだファイナルで、俺の得点を超えて見せたユウリ。
引退して、それでも俺に生きる意味を与えてくれた、生きる意味を教えてくれたユウリ。
俺の最初の生徒で、きっと最後の生徒。すぐに太ってしまう可愛い子豚ちゃん。…二つのLをくれたユウリ。
「見ていて、ユウリ。金メダルにキスさせてあげるよ」
少し時間に余裕がなくなってきた頃に選手入場口から姿を現した俺に、ヤコフは何も言わなかった。ただ俺からジャージを受け取って、肩を一度叩いただけ。でも、それでよかった。
くじ運があるのかないのか最終滑走を引き当ててしまったため、ユリオを含めた他の選手はキスクラにいたり観客席に陣取っていたりする。
(全員が、俺を見る)
ぞくり、と何かが背中を走った。久しく感じていなかったそれは、所謂「興奮」と呼ばれるもので。
(誰も俺から目が離せない)
選手も、観客も、関係者も、審査員も関係ない。全ての「ヒト」がその目で俺を見る。テレビを通して、カメラを通して、肉眼で、俺だけを見る。
(ここは俺の独壇場。俺だけの王宮)
今からこのリンクは、俺の許し無しに誰も入ることができない聖域だ。このヴィクトル・ニキフォロフが支配者。
『ロシアのヴィクトル・ニキフォロフ選手。曲はショパンの「24のプレリュード第4番」です』
ワアア、と一際大きな歓声が起きる。
時間をたっぷりと使ってリンクを滑る。自分のテリトリーを再確認するように、これからの演技が最高のものであるために。
中心で動きを止め、ポーズをとる。
(ユウリを軽く見た者も、侮辱した者も、その目をよく開いて見ているといい。これがヴィクトル・ニキフォロフだ。そしてそんな俺を完成させたのは、他でもない、君たちが嘲り笑ったユウリ・カツキ!)
見てろ、と意気込んだその時、ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らないことに気付いた。
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか? (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです!これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします! (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます!引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました!そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです!更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします!頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西 | 作成日時:2017年11月25日 3時