22ページ目 信頼 ページ23
「先ほどヴィーチャに封筒を渡していたが、あれは…」
「ああ、あれは“YURI on ICE”の所有権ですよ。個人で滑る分には曲の使用は問題ないですが、もし公の場で使うのだったらあれが必要でしょう?」
そう、あれは勇利が所有権を持っていた例の曲を、公式戦などで使うために必要な書類だ。今は勇利に代わり勝生家がその所有者になっている。
あれをヴィクトルに預けるということは、つまりヴィクトルに“YURI on ICE”を公式戦で滑ってみろ、と言っているようなものだ。
「…手厳しいな。あのプログラムを、公式戦でか」
ヤコフコーチから向けられる疑うような視線を躱すように、俺は彼に微笑んで見せた。
「年齢にしてもピークを過ぎている彼にとって、厳しいと思われますか?」
その言葉にヤコフコーチは何度か瞬きをし、それから下を向いた。ただ、口だけ笑っているのが分かった。
「そうじゃな、ヴィーチャのやる気次第、と言ったところか」
そういう言葉とは裏腹に、その顔には自信が溢れていた。老いてなお力を失わないその目が、ヴィーチャならできる、と雄弁に語る。
「随分と信頼していらっしゃる」
自然と笑みが漏れた。こんなにも断言されると、もはやヤコフコーチの判断は『確信』と呼んでも良いくらいに思える。
「ふん。コーチの本髄は生徒を信じること。それと、生徒自身が自分自身を信じられるように導くことじゃからな」
わしはヴィーチャを信じている。あのヴィクトル・ニキフォロフが氷上に帰ってくることを、そしてまた笑顔を見せてくれることを。
そう言い残してヤコフコーチは俺に、置き忘れていたのだろう俺のマフラーを巻いてくれて、そのまま建物の奥へと去っていった。
(…随分と、信頼していらっしゃる…)
それは、ヤコフコーチへ向けた言葉ではなく、勇利へと向けた言葉だったと、後になって分かった。
勇利は恐らく、ヴィクトルは勇利の作り上げたプログラムを滑ることができると思っていた。そこにあるのは、勇利からヴィクトル・ニキフォロフへの、信用や信頼ではなく、確信。
もしかしたら、確信ですらなく、勇利はただそれを事実として受け取っていたのかも知れない。ヴィクトル・ニキフォロフならできる。それが事実で、真実。ただそれだけ。
ドアを開けた先、スケート場の外は寒さが増していて、歩いている間にも段々体温が失われていく。それでも、マフラーの巻かれた首元は暖かいままだった。
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか? (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです!これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします! (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます!引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました!そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです!更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします!頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西 | 作成日時:2017年11月25日 3時