５８ 獣への断罪 ページ8
あふれ出てくる涙が視界を歪ませる。自然と彼の名前が口から出る。何度も、何度も名前を呼ぶ。そうしたらいつか、きっと、あの笑顔を見せて、「なんだよ」って言って、私の名前を呼んでくれるはずだから。
ようやく噴水が見えてくる。そこには何人かの人影が見えて、きっとここまで避難してきた住民なのだろうと思う。きっとバシェラーは彼らを守っているに違いない。
「バシェラー！」
ありったけの希望を込めて、彼の名前を呼ぶ。やっとあえた、やっとあえた！やっと…
でも現実は無情で。そこにいたのは彼なんかじゃなかった。それよりももっと下劣で、野蛮な、人の形をした獣。
「ぎゃはははは！！この服イケてねえ！？」
「お前には似合わねえよ！」
そんな男兵士が自慢げに羽織っているのは、太陽に輝く純白のコート。たくさんの勲章が…彼の努力の証が付いた、バシェラーの、軍司令官のコート。
「…なんで…」
思わず漏れてしまった声に男どもが反応する。
「あー？女じゃねえか！ははは、これはあれだな、神さんがよく頑張りましたーってご褒美に連れてきてくれたんだろ！」
「まだ若いけど、まあそれもいいよな、初々しくて！泣き叫ぶのを見るものいいよなあ！」
高ぶった二人の男が私のほうに歩み寄る。そんな状況なのに、私の頭には一つのことしかなかった。
「バシェラーのコート、返せ」
そう言うとコートを羽織っていた男は少し悩んだ仕草をして、
「あー？これかー？これな、ほらよ！」
それを近くで燃えていた民家のほうに投げた。
見る見るうちにそのコートは白から黒へと変わっていき、そして煤けた何かしか残らなかった。その様子を茫然と見続ける私になおも近寄りながら男は喋る。
「あいつなあ、コートの持ち主。笑えるんだぜ？何十人も何百人も俺の仲間を殺しておいて、１人ガキを人質にしてみれば抵抗するまでもなく死んでった！馬鹿だよな！！」
早口に言葉を紡ぐ彼らの方を向いて、静かに問う。
「どこの国から来た」
今度はコートを羽織っていなかった男が、これより南にある連合王国からだと答えた。だから軍旗がいくつもあったのだと情報を整理する。
「そう」
近寄ってくる獣を見据え、もう無用だということを告げる。私の次の目的は決まったのだ。こんなところでこいつらに付き合っている意味がない。
「死ね」
なるべく苦しみながら死ねるように、風を操作して彼らの骨を砕いていった。
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作者名：西 | 作成日時：2017年5月22日 21時
