９７ 乱雑な救出 ページ47
聞き覚えがある声だった。夕日に照らされたような髪を長くたなびかせるその男は、先ほどまで私に触れていた男の両腕を、頭上に持ち上げ締め上げている。
「…赤毛の、悪魔」
「今はギィ・クリムゾンだ」
ぼそりと口を滑るように出た彼の呼び名に、その悪魔、ギィは口角を上げて答えた。少しだけ私を見つめた後、今度は男のほうに目を向けた。
「魔王の膝元で悪事を働くなんざ、いい度胸してるな。その根性は牢屋で見せろ」
そう言い捨て、騒ぎを聞きつけ駆けつけた聖騎士二名のほうへ、決して軽くはないだろう男の体を、片手で放り投げた。一連の流れを静かに見守っていた観衆たちは、ソーカとシュナの司会進行の元、次の試合に目を向けた。
「行くぞ」
次に私の手を引いたギィは、喧騒の中そのままコロシアムの観客席を抜け、近くにいた係員に魔王リムルへの言伝を託してから、首都リムルにあるギィに与えられた客室に入った。木製の落ち着く雰囲気を醸し出す室内は、清潔感があり、どこか優雅さを覚えるような家具で統一されていた。ギィは私をソファに座らせ、自分はテーブルをはさんで向かいに座った。
すぐにテンペストの特産となったケーキと紅茶が出てくる。それらを私とギィの目の前に置いた二人の美女は、一礼をしてから部屋を出ていった。
「…久しぶりだな」
こくん、と紅茶でのどを潤してから、ギィが話し始める。私もそれに習い紅茶を飲んでから、そうだね、と返した。鼻孔から喉に通る香りを楽しみながら、舌でほんのりと甘い液体に舌鼓をうつ。
「今までどこにいたんだ」
「世界中を旅してたよ」
思ったより直球で来るんだなと思いながら返答すると、間髪入れずに次の質問が飛んできた。
「どうしてテンペストに来たんだ」
「最近人気になってきたし、帝国との戦争はいったんキリが付いたようだから」
本来の目的は別にあったが、言うほどのことでもないし、混乱させるのも嫌なので、それに関しては黙秘権を行使しようと思う。
「そうか」
ため息とともに吐き出した言葉は空気に溶けて、それに気を取られている間に、ギィはケーキを一匙、口に運んだ。もぐもぐと咀嚼するギィはどこか子供らしく見えて、少し笑ってしまう。
昔会った時には恐怖心と不信感でいっぱいだったのが、いつの間にか会話を楽しむ余裕ができたようで、それがなんだかおかしいように思えた。
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作者名：西 | 作成日時：2017年5月22日 21時
