【転スラ】世界の声の媒介者【放浪しよ】Ⅱ (ページ22)

今日:29 hit、昨日:21 hit、合計:102,705 hit

７２　滅びる前にページ22

歪む視界に不快感を覚えつつも、焦点を合わせる。そこは先ほどまで私がいた機密資料室で、出ていった時のままの状態であるところを見る限り、見回りなどは来ていないようだった。

(よかった…)

　あの悪魔が再び短時間の間にここに来るとは思えないし、今警戒すべきは見回りのほうだろう。そう判断して、先ほどの作業を再開した。

　ただ黙々と資料に目を通す。財政が危なくて税率を上げたりだとか、魔物の被害の報告書とか…

　北東の国への侵攻状況の報告書を見つけたときは、その内容に驚いた。食料が足らない、武具も十分でない。そんな状態で敵国に向けて進軍しているのだから、この国の頭は何を考えているんだ、と理解に苦しむ。

(なるほどこれは、あの悪魔が滅ぼしたがるのも頷けるな)

　一通りの印刷が終了したことを確認し、ブレスレットを机の中に隠して部屋を出る。空はいまだ暗いままで、そのおかげで私は誰に気付かれることもなく宿に帰った。

　宿につくと同時に、私は分身体を北東の国へ放った。北東の国の現状を把握し、記録することも重要だと思ったからだ。もうすぐ消えてしまうのだし。

(…北東の国が消えること前提に考えているのが怖いな)

　あの悪魔が北東の国を滅ぼし損ねるという可能性は皆無だ。手加減するたちでもなさそうだし、もしそうだとしたら北東の国によほど面白いナニカがある、ということになる。

(と言うか私も急いでこの国を離れないと)

　国の終末に付き合いたくはないし、なにより宿がばれたことによってあの悪魔がいつ来るかわからない。

《秘密基地に帰りますか？》

(そうだね。もう少し調べたかったんだけどな…いや、近くの岩場で待機しようか。あの悪魔の戦闘能力が知りたい)

《了解しました》

　少ない荷物をまとめ、夜明けを待ってから宿を引き払った。昨日と変わらず賑やかな通りを歩き、国から出る門に向かう。そのとき、ふと昨日行った魔法道具店が気になった。

(少し寄っていこう)

　踵を返し、昨日の道なりを思い返しながら辿っていく。少し歩いたところで、昨日あの店があったところに小さな人だかりができていた。

　しばらく眺めていると、魔法道具店の店主である、昨日話したおばあさんが涙を流しながら笑っていた。その目の前には男性と青年が並んでおり、その周りを何人かの女性が囲んでいる。

　もしやとは思ったが、会話の内容からしても男二人はおばあさんの息子と孫のようだった。