【転スラ】世界の声の媒介者【放浪しよ】Ⅱ (ページ12)

今日:9 hit、昨日:21 hit、合計:102,685 hit

６２　二度目の赤い空ページ12

停止した世界で一人動く。触れればすべてが柔い豆腐のように切れてしまいそうな、備前刀を模したその刀を振るう。真剣など振ったことは一度もないが、まるで切れ味のいい包丁のように軽く振るえた。

　音もなく、反応もない世界で、私は私を取り囲むすべての兵士を斬っていく。顔を見ると人間を斬っているということに恐怖が起こるが、それでも憎しみのほうが勝った。

　再び世界を動かすと、兵士たちはその場にうめき声など一切立たせずに倒れた。辺りが血で溢れ、足元にも広がる。

(全員殺してやる)

　それから私は、世界を止めて、ただただ人間を切り捨てた。ザクザク、サクサク。手ごたえはあるが音もないので、ただの作業になってしまったのが残念だ。テラーに意識と痛覚だけ残す方法を教えてもらおう。

　世界を止めて何日経っただろうか。私はすべての人間を斬り終わった。目の前に転がるのはみじん切りにされた連合王国の王及びトップの方々だ。

　白い床に広がる赤いカーペット。本物なのか、血でできたニセモノなのか、今の私には判断できない。王の間を出て廊下を進むと、左右に散らばる肉塊と血液。塔の上に上って見える街には、老人も子供も貧富も関係なく、すべてが赤い何かになったものが散らばっている。

　世界を再び動かし始め、風や音が戻ってきた。ただ悲鳴は聞こえないし、生物反応もない。私が体験した何日間かは結果を残して無いことになる。

　指先に火を起こし、それを街に放つ。少ししてそれは大きな炎となって、南の連合王国全土を包み込んだ。まるで、メトロポリスがそうであったように。

　焦土と化したその国を上空から眺めてみる。メトロポリスと被って見えるが、これはただの後片付けだ。立つ鳥跡を濁さず、文化も化学も歴史も無に帰す。

　血に濡れた刀を魔法で綺麗にしてから鞘に戻す。何人も切り捨てているうちに習得した技術は、閃光剣術と名付けられた。私から見たらゆっくりなのだが、相手から見るといつの間にか死んでいる、というものだ。急所も教えてもらったので、これに能力を付加しつつ斬ったらそれはまさに無敵だろう。

《回復無効とかどうですか》

(精神崩壊とかどうですー？)

　この短い期間で私もテラーもどこかおかしくなったように思える。ふと下で燃え盛る炎から真横にある空に目を向けたら、それはヴェルドラが東の街を襲撃した時と同じ、燃えるような赤い空が目の前いっぱいに広がっていた。