アルコールのせいにして ページ15
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まだ社内には残業している人が残っているだろうが、エレベーターを降りてすぐの受付付近は誰もいなくて、少し暗い。
足音だけが響き渡っている受付を過ぎて外に出れば、まだ明るかった。陽が落ちるのが遅くなっていくのをしみじみと感じている。夏が来る、きっと夏もあっという間に終わって秋が来て、冬が来るんだ。
そう考えると、1年って本当にあっという間。
そんなことを考えていたら前を歩く松川さんが振り返って立ち止まった。つられて私も立ち止まればそれを見た松川さんが私の横に来て腕を引いて歩き出す。
急なことに驚いて「どうしたんですか?」と声をかける。
「Aちゃん、偶に危なっかしいよね、さっきもぼーっとしていたし、後ろに居られるより、こうして隣に居れば何かあってもすぐ反応できる」
「…この手はなんです」
「おまけ」
「こういう事するから松川さん誤解されるんですよ」
きっと私だけじゃなくてほかの子にもやってる。
入社してから数か月で松川さんの噂は耳に胼胝ができるほど聞いてきた。期待を持たせるようなことをして女の心を奪い去っていく。
そうでなくても異性にモテる容姿をしているのだから、こういうことをされた女の子には酷く同情する。
ボソッと、松川さんが何か呟いた。
「なんですか?」
「いいや、なんでもない。ほら、行くよ」
相変わらず行先も告げられないまま、ぐいぐいと腕を引っ張られて路地に入っていく。
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年5月9日 19時