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Aが“デスインフェルノ”を放ち、GKやDFが倒れた時の事を思い出す。
点が入った事を知らせるホイッスルが鳴り響いていた時、Aは呆然とその光景を眺めていた気がする。
その表情は驚いている様に見えて……何かを恐れているようにも見えた。
「……なるほど。“怖い”って思ったんだね」
「こわ、い？」
「そう。Aはフィールドに倒れている人達を見て怖いと思ったんだ」
「怖い……そっか。あれは怖いって言うんだ」
感情を失ったAは、あらゆる感情をどう表現すれば良いのか分からないらしい。
無表情であるのは間違いないのに、纏う雰囲気、一瞬だけ見せる表情の変化からAに感情が少なからず残っていることは分かっている。
あの時Aは何に恐怖を覚えたのか。
……それは“デスインフェルノ”を使った自分自身だ。
最近僕の中では新たな仮説が出来た。
Aは意識的には全てを忘れているが、無意識の中では覚えている可能性があるという事だ。
言うなれば、身体が覚えているって言う奴だ。
実際にAは記憶を失っても自分の名前、顔、プレースタイルは覚えていた。
元雷門イレブンの必殺技に過剰に反応するのも、身体が覚えていたからと考えれば……。
「……それだけでは足りない」
それだけでは彼女を救う要因になれない。
王帝月ノ宮に来て日の浅い彼女は、この中ではアレスシステムの影響を強く受けていない部類に入るはずだ。
だから隠したがるんだ。
彼女の無意識に行っている“抵抗”を。
「彼女を救うには何か別の要因が必要なのか」
それは灰崎君を厄介な存在に変える存在が別にいるという僕の考えと同じだ。
彼女もまた、彼女自身を変える存在が別にいると考えている。
何故か彼女だけはその存在がいると確信してしまうんだ。
「……その存在は一体誰なのか」
元雷門イレブンのメンバーか。
あるいは灰崎君の心に復讐を生み出す切っ掛けになった少女の様な存在か。
それとも＿＿＿僕自身が変えるべきか。
それはまだ僕にも分からない。
でもこの気持ちは確かだ。
彼女を調べる為に見た映像で、あの笑顔を実際に見てみたいと思うようになったのは。
光の宿った瞳で見て欲しい、感情のこもった声で名前を呼んで欲しいと思うようになったのは。
この気持ちが何なのか、まだ僕には分からなかった。
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作者名：恵野 | 作成日時：2021年6月6日 0時
