雪の果てを覗く【短編集】

コーディーリアと呼んで/easy R ページ8

※BBBのネタバレあり



そもそも、乱数の前で名前なんて必要ないのだ。乱数は例え遊び相手の名前を知ったところで、どうやったってオネーサンとしか呼ばない。それは恋仲であるAだって例外ではないのだ。そして、Aの前でだって名前なんて必要ない。Aは男の事を例外なくオニーサンとしか呼ぶ。乱数だって然り。要は、二人はよく似ていた。互いに都合のいい存在であり、恋仲とは名ばかりの手札。売れっ子デザイナーでありシブヤを代表するチームのリーダーでもある乱数と有名モデルのA、この関係はなにかと便利なのだ。



「あっ、オネーサンだ！なあに、撮影？」

「ううん、今日はプライベートで。ね、オニーサン。今度オニーサンのブランドのお洋服着たいなあ？」



Aがこう言う時は大抵何かをお願いしに来るときだ。お前のブランドを宣伝してやるから、代わりに何かをやれと。乱数だって人間で男だ。重い税の中暮らしていくには仕事が必要で、それを増やしてくれるのならば礼をしなければならない。トントン拍子で話は進んでいき、いつも通り別れ際に礼の内容を聞いた。彼女の口は待ってましたとばかりに弧を描く。



「オニーサン、私のこと調べようとしてるでしょ。それやめてほしいな」



乱数は表情こそ変えなかったが、口に突っ込んだ飴が酷く苦く感じた。なぜ知っている。乱数は政府とのつながりもある為、近づく人物は全て洗いざらい調べる必要があった。その一環でAの事も調べねばと思っていた。そう、思っていただけなのに。なぜ。つう、と冷や汗が頬を伝う。こんなに焦ったのは久方ぶりだ。三日月のように細まった大きな瞳は何も映していない。真っ暗闇。それは、乱数が逆鱗に触れられた時にする顔と同じだった。



「……なんで嫌なの？やましい事があるの？」

「関係ないよね。オニーサン、自分が調べられた時は嫌がる癖に。でもまあ、ちょっと理不尽な要求だったかな。お詫びに調べちゃいけないところだけ教えてあげる。それ以外の情報は勝手にしていいから。



……名前は、本名は調べないでほしいな」

コーディーリアと呼んで/easy R→←ありあむ★様より漫画を頂きました。

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