【短編集】待宵草の詩【文豪ストレイドッグス】

汀の出来事【edogawa】 ページ19

※「雨月」の続きです



「海、行きません？」



夕方だというのに、突然彼女がそう云い出した。今から行っても泳げないのは分かりきったこと。



「なんでさ。僕、海嫌いだし。第一今から行ってどうすんの」
「御得意の超推理で考えてくださーい」



またそうやってはぐらかす。僕ははっきりが好きと何度云ったら分かるのだろう。頬を膨らませながら、仕方なく海まで行った。ああなった彼女は止められないだろうし、仕方なくだよ。



「ほら、綺麗ですよ」
「景色なら写真でも良いじゃないか。なんで態々名探偵の僕がここまで来なきゃいけないんだ」
「観念して下さい」



景色が良くないとは云っていない。たしかに、良いとは思うよ。でもこの時間に来る必要はあるのか。内心文句を垂れながら海を見る。



「ねえ、どうして私の心を超推理で読まないんですか？」
「＿＿なんでだろうね」



彼女にはまだ云ってない。



「海が、綺麗ですね」
「僕に溺れてるって？」
「この間も云いましたが、オブラートに包んでるんですからはっきり云わないで下さい」
「僕もこの間云ったけど、はっきりが好きなんだから言い回しはやめてほしい」
「私はこれが好きなんです」



＿＿それに。



「乱歩さんこそ、自分の気持ちを全然いってくれないじゃないですか。オブラートを剥がすだけで、答えてくれない」



そうだ。僕は全然自分の気持ちをはっきり云ってない。彼女はどんなに不安だったんだろう。超推理は使えないから、僕は彼女の不安を明確に知らない。はっきりが好きと云いながら、自分ははっきりしないなんて我ながらずるい。



「……夕日が綺麗ですね」



僕の気持ちが知りたい、か。



超推理で彼女の気持ちがわからない理由は、至極簡単だ。



「月も綺麗だろうね」
「出るまで一緒に居てくれますか？」
「折角合わせてやったのに」
「お返しです」



僕が彼女を好きだから。

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