白衣の天使じゃないけれど (ページ32)

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「康二くんはどこから話聞いてたの」
「……さっきの人Aのこと本気言うてた」
　うーん、最初から聞いてたのね。
「さっきの人はただの先輩だよ。確かに告白はされたけど、私が康二くんより先輩を選ぶことは絶対無いから」
　力強く康二に話すと、康二くんは私の手をギュッと握る。
「うん……分かってんねん。でもな、俺と違って仕事を頑張るAを見てる。もし付き合ったら外では周りを気にせず歩けるし、周りに付き合ってることも平気で言える。俺、Aを幸せにできてんのかな思って」
「……康二くんのアホ！！」
　思わぬ反応だったのか、康二くんはキョトンとして私を見つめる。
「一般人とアイドルの線引きしないでって言ったの康二くんでしょ！康二くんのアホアホ！！」
「……アホ言い過ぎや」
　こんな状況でも、弱々しさはあるけどツッコミを入れるのは流石だと思う。
　でも今は関心している場合ではない。
「そんなことで私の幸せを勝手に決めないでよ。そもそも私だって仕事してる康二くんのこと分からないもん！大体、人に見せびらかしたくて康二くんと付き合ってるんじゃないもん！」
　早口に伝えると、康二くんは少し間を置いて眉を下げながら微笑んだ。
「……ごめんな格好悪くて」
　そう言うと、康二くんの瞳からポロリと涙が零れた。
「もう最悪や」
　康二くんは涙を拭って寝室に逃げ込む。
「ちょっ……康二くん」
　私が後を追って寝室に入ると、康二くんはベッドに丸くなっていた。

「……康二くん」
　背中をさすると、康二くんはチラリと私を見る。
「……見らんとって」
「ふふ、やだ」
　拗ねたように言う康二くんが可愛すぎて、思わず笑ってしまう。
「……俺ね、最初めちゃくちゃヤキモチ妬いたんやけど、帰る車の中でいらんこと考えてしもた。もう情緒不安定や」
「そっか」
　言葉少なく返し、私がそっと康二くんの背中に寄り添うと、康二くんは体勢を変えて私をギュッと胸に押しつけた。
「思い出したらまたモヤモヤしてきた」
　今度は隠すことなく感情をぶつけてくる康二くんに、私はようやく安堵した。

「まぁ、仕事してるときは知らんけど二人しか知らんこともあるな」
　そう言うと、康二くんは私をシーツの上に転がす。
　そしてその上に康二くんが跨ると、ベッドが軋む音がした。
「ちょっ、康二くんっ……」
「もう黙れ」
　私はこれ以上話すことを許されず、康二くんの爆発した愛情を受け止めることしか出来なかった。