白衣の天使じゃないけれど (ページ31)

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「いつもAがお世話になってます。もう俺が迎えきたんで大丈夫です。ありがとうございます、Aが１人にならんように一緒におってくれたんでしょ？」
「あ、え……あ、はい……」
　康二くんの貼り付けたような笑顔に先輩は思わずたじろいで、じゃあと呆気なく去って行く。
「帰ろ」
「う、うん……」
　康二くんはそのまま私の手を引き車へ向かう。
「あ、康二くん外だから……」
「ええから」
　康二くんは外ではくっくつことはない。
　掴まれた手を離そうとすると、康二くんはそれを許さなかった。
　私は周囲を気にしてキョロキョロするけど、どうやら帽子に眼鏡、マスクをした康二くんに気がついてる人は周りにいないようだ。

　結局家に着くまで康二くんは無言で、私もなんとなく居心地悪く、窓の外の流れる景色を見ることしか出来なかった。

　家に着き、康二くんが玄関の扉を開けてくれる。
「ありがとう、ただいま……わっ！」
　扉を閉めた途端、背後から康二くんが抱きついてきた。
　あまりに突然で、私は頭が真っ白になる。
「こ、康二くん……？」
　表情が見えない分声を聞きたいのに、康二くんは何も言わずに私の項に額を押し付けてくるだけだ。
「康二くんってば」
「……A」
　ようやく私の名前を呼んだかと思えばあまりにか細い声で、私はどうしていいか分からなくなる。
「Aは俺とおって幸せ？」
「……え」
　なにやら不穏な質問に、私は血の気が引いた気がした。
「ねぇ……康二くん」
「Aは俺のこと好きよね？」
　私の言葉を遮るように口を開く康二くんは、まるで捨てられた子どものように弱々しい声色で、私は戸惑いを隠せない。
「俺よりさっきの人を選んだりせんよね？」
　あぁなるほど。
　康二くんは先程の先輩との会話を聞いてたんだ。
「康二くん、ちゃんと私の話を聞いて？」
　私は康二くんに振り返り、顔を覗き込む。
　ちゃんと目を見て話そうとするのは、何もやましいこともなく、康二くんしか好きじゃないという意志が伝わって欲しいから。
　康二くんがあまりにも苦しそうな表情をしてて、こちらも辛くなる。