◇君の嫌いな理由◆ (ページ2)

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「ち、違います！大丈夫です！」

「えっと、じゃあ、どしたん？」

困ったように眉を下げて私を見てるその人が
私の教科書の上に筆箱を置いて。

何も答えない私に
ちょっとおいでって人懐っこそうに笑って
私の手を取って歩き出した。

綺麗な黒髪に目が隠れるくらいの前髪。
その下から出てる涙袋。

捲り上げた袖からは筋肉質な腕が出て
立ち上がった背は大倉くらいの高さ。

何処に行くのかは分からなかったけれど
何でか少し安心した。

その人の背中に声に優しさに。
まるで私を肯定してくれる様な瞳に。

少なからず私は、安心感をおぼえてたの。

楽しそうに前を歩いてるその人は
制服のポケットから鍵を取り出して
開けた部屋は保健室。

出張中の紙が貼られたドアを
ガン無視でスタスタと中へ入っていく。

「え、ちょ、あの…！」

「ん？座り？」

「え、で、でも…」

「俺、この部屋入る許可取ってんねん
せやから安心し？」

上履きを見るに三年生。
私の一個上。

なんとなく逆らえなくて
取り敢えず椅子に腰掛けた。

「あ、名前聞いてへんかった」

「え、名前、ですか」

「おん、知りたい！」

「澤木Aです」

「A、俺のこと分かる？」

「いえ」

そう答えた途端きょとんとして
そのあと嬉しそうに顔を綻ばせた。

可愛い。

「錦戸亮、覚えてや」

どっかで聞いたことある。
でも会ったのは初めて。

噂かな？
あれ？違う？

考え込んでる私を見て
ふふって笑った錦戸先輩。

「俺のこと聞いた事ある？」

「多分…」

「不良やから関んなとかな？」

「あ、かもしれないです」

こくんと不思議そうに顔を傾けて
怪訝そうな顔をしてる。

あれ？私まずいこと言った？
私もきょとんとしてたんだろう。

ぶはって錦戸先輩が盛大に吹き出した。

「A鈍感って言われへん？」

「言われません！」

「んーまぁええわ
A、気に入った！」

爽やかに笑う錦戸先輩は
全然不良なんかに見えない。

他愛ない会話をしてたら
次の時間のチャイムが鳴ったけど無視。

Aって慣れないのか何度も呼んで
私も亮君でええよって言われて
慣れない名前を亮君亮君って何度も呼んだ。

俺らバカップルみたいやなぁって言いながら
ありえへんわぁって笑った。

「そういえばAは何組？」

「何組だと思います？」

「答えなあかんの？」

「全部違うっていいますけどね！」

「しばくぞ」

亮君が本当に楽しそうに笑ってくれるから
私まで嬉しくなってくる。