すれ違う兄弟の心 前編 ページ48
イズナ視点
「ただいま〜。」
家に帰ってきてそう声を出すが、
返事が返ってこない。
「あれ兄さん、居ない？
柱間の所にでも行ってるのかな？」
Aが来てると報告しようと思っていたのだが、
居ないならばしょうがない。
帰って来たら言えば良いだけだ。
草履をぺぺっと脱ぎ捨てた俺は、
そこでハッとある事に気づく。
「あ！Aに聞くの忘れてた。」
兄さんの釣書の件について
すっかり頭の中から抜け落ちていた。
「でもA…アカデミーの時
すっごく落ち着いていたし…」
あれをちゃんと読んであの雰囲気なのか？
兄さんの釣書を渡したのだ、
Aの事だからてっきり自分に何か言いにくると思ってはいたが、アカデミーにいる間も全く何も言って来なかった。
ただ単に自分と同じように
忘れていたのかもしれないが…
「いや、でも…普通忘れるか？
それにあの反応、
本当に好いているのか？」
「随分とAに御熱のようだな、イズナ？」
「ッ？！！
に、兄さん？
お、驚かせないでよ！」
前と同じようにこうして気配を消したまま
話しかけて来るのは切実にやめてほしいと思う。
「何を驚いている。
お前も忍だろう？気配くらい…
いつ何時も気に留めておけ。」
兄や柱間のような規格外の忍者であれば
出来る芸当かもしれないが
自分はそうじゃない。
「無理だよ、
そんなのしてたら神経が
擦り切れちゃうし。」
「イズナ、お前…
Aを好いているのか？」
「え？なんて？」
突如、放り投げられた
その質問に俺は石のように固まる。
意味をやっと理解したその時、
何故そんな事を聞かれたのか？
先ず疑問に思った。
「え？なになに？
急にど、どうしたの、兄さん？
アハハ、そんな訳ないじゃん。」
「何、別に隠さずとも良い。」
「ち、違ッ。別に隠してなんか！」
それに好いているのは兄さんの方じゃないか、
と言おうと俺が口を開くのを遮った兄さん。
「お前は、
何も後ろめたく思う必要もない。」
そう言いながら俺に対して
優しい笑顔を見せる兄さん。
しかし、
いつも見てきていたからこそわかる、
この笑顔は偽物だと。
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