百四一 ページ41
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思わず、驚いて顔を戸の方へ向けた。今のは本当に信長の声かと思うほどに轟くように低い。覚えているような声ではなかった。そこで半兵衛は、光慶殿と高虎殿はこちらへ、とその奥の部屋へと通された。
「それ、信長様なら気付かれるかと思いますけど会うつもりですか?」
「…なんの事でしょう」
自分からハッキリと出た声は、予想以上に変わっていた。 前よりも低くなっていた。半兵衛は気付いたらしいができるだけ誤魔化せられるところまで誤魔化しておきたい。と、焦ってはいたのだが、半兵衛は声を聞いて眉をひそめた。
「いえ、思い違いのようです。失礼致しました、光慶殿」
俺は不審に思うように顔を曇らせた。半兵衛に別人と思わせるために。高虎は何食わぬ顔でずっといるため、助かる。
しん、と黙って待っていると背を向けていた隣の大広間から少々騒然とした声が聞こえるがすぐに静まった。そして、光秀が出てきた。そのままこっちに来たので、どうだったのかと声を出そうとすると驚いて声が出なかった。長い髪が切られていた。刀で切られたらしく、毛先も悲惨にバラバラになっている。それに加えて、顔は殴られたらしく口の端に血が付いていた。
「父上、一体どうして」
「いや、私が悪いのだ。命令に従わなかったのだから。
光慶、殿の元へ挨拶してこい」
「…はい」
聞きたいことはあった。きっと、信長がこうしたんだと思う。流石にやりすぎなんじゃないか。本当に信長なのか。
重い足取りで戸を開け放たれた大広間の前に立つ。上座に座り、頬杖をつく信長、そして家臣が一斉にこちらを見る。
思わず息を呑んだ。こんなにもここは息苦しいところだっただろうか。信長は髪が短くなっていた。肩以上に合った髪は肩より上まで切られていた。髪型は変わろうと、異常な威圧は変わらない。
重い足取りで、信長の前に膝を付き、平伏した。
「貴様が光慶か」
「はい、信長様の御目に掛かり光栄です。
光秀が父、明智光慶でございます」
信長が立ち上がり、俺の前に立つ音がした。
「
ゆっくりと、顔を上げた。目の前に、刀が突き付けられていた。だが、俺はじっと信長の瞳を見つめた。目が合っているはずなのだが、全く合っている気がしない。爀い双眸は光がなく、闇を見ているような感覚だった。
「目障りな顔だ」
気付かれている気しかしない。
「…ッ」
信長は鼻で笑うと、大広間から出ていった。そして、他の家臣達も出ていった。
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愛之助(プロフ) - そうです《自主規制》のひとりごとです^^ (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
カケオレ - ま、まさか……薬〇のひとりごと……!? (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 1b32a494c8 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - 玲さん» 作品の目次ページにボタンとCSSて書いてあるとこでオフにして貰えたらノーマルになるのでお願いします〜🙏💦 (2022年7月10日 21時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - すいません。とっても面白いんですけど背景のせいで文字が見にくいです。 (2022年7月10日 20時) (レス) @page39 id: be882aa841 (このIDを非表示/違反報告)
なーーみ(プロフ) - 愛之助さん» もう本当に感謝しかないです( ; ; ) ありがとうございます。 これからも頑張ってください。応援してます!! (2021年5月17日 22時) (レス) id: af11d71d69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:大手裏剣 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年9月29日 1時