百二 ページ2
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「…情けない、くそ」
冷たい、牢の中でAはぽつりと呟いた。裸足で、鎖のついた枷に拘束されていた。腕が痛くて、足が痛くて、血が滲んでいた。
寒くて、独りで、気が遠くなっていた。
「朝餉を持ってきた。是非食べてくれ」
ひたひたと、足音が近付いてきて、牢の前に止まった。白髪の男だ。
Aは出された食事を食べようとはしなかった。
「要らない。…それより、ここはどこだ」
Aは一層低い声で聞いた。白髪の男はふぅっと息を吐いて答えた。
「申し訳ない、それはおそらく教えられません。
で、君は…濃姫様とか、生駒吉乃様という所かな?」
鋭い指摘だ。子供を連れているし。こんな目立つ着物なら嫌でもどこぞの姫だ、と気付くものだろう。だが、簡単に認める訳にはならない。人質となっては足でまといにしかならないのだ。
「残念だな。私は子供の世話を任された、ただの護衛だ」
「そうか…それでは、貴方を生きて返すことは難しい」
白髪の男は、虚ろな目をしてAを見下し言った。
「…ここは、延暦寺。
遊女を寺に呼ぶ、ろくな僧がいないところです」
「ッ…」
血の気が引いた。自分がこれからされるかもしれないことが、伝えられたから。ここで死ぬのか。何も出来ずに死ぬのか、と絶望した。
やっぱり、ここは戦国時代なのか。改めて、実感する。弱肉強食の世界だった。
Aは白髪の男を睨んだ。すると、奴は虚ろな目からあぁ、と声を漏らし微笑んだ。
「織田が今どうなってるかお教えします。
信長殿は浅井に裏切られたそうです。妹君もいると聞いていましたが信長殿は運がないようですね」
あっという間だった。お市は浅井長政とは上手くいっている、と文をよく送ってきていたし、子どもも出来たと喜んでいた。
きっと愛していた。が、引き剥がされてしまうのだ。
やはり、歴史には抗うことは出来ないのだ。
そして、Aも歴史から消されようとしている。帰蝶という信長の正室は嫁いだあとは何も残されていないのだ。死んだのかも、離縁したのかも分からず歴史の表舞台から降ろされたのだ。
誰が、帰蝶が誘拐されるなど想像しただろうか。
「それで、?」
「気になりますか?
貴方が知ってる通りなのではないですか?」
「…は?」
白髪の男はあたかも、Aは歴史を知っているのをその男は知っているようだった。
「浅井に裏切られたってのに驚きませんね。信長殿は動揺していたんですが
あぁ…そうだ、貴方は」
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愛之助(プロフ) - そうです《自主規制》のひとりごとです^^ (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
カケオレ - ま、まさか……薬〇のひとりごと……!? (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 1b32a494c8 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - 玲さん» 作品の目次ページにボタンとCSSて書いてあるとこでオフにして貰えたらノーマルになるのでお願いします〜🙏💦 (2022年7月10日 21時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - すいません。とっても面白いんですけど背景のせいで文字が見にくいです。 (2022年7月10日 20時) (レス) @page39 id: be882aa841 (このIDを非表示/違反報告)
なーーみ(プロフ) - 愛之助さん» もう本当に感謝しかないです( ; ; ) ありがとうございます。 これからも頑張ってください。応援してます!! (2021年5月17日 22時) (レス) id: af11d71d69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:大手裏剣 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年9月29日 1時