癒されるべき日々【文スト】 【双黒】 【短編集】

君の言葉で　〔太宰〕　６ ページ16

「テメェ、太宰治だな!?テメェが俺たちの組織をブッ壊しやがった礼だ!見てろよ、テメェの___」

「煩い」

_女が殺される瞬間を。
そう続けようとしたのだろう男の声は、今まで聞いた中で一番重く静謐な治の声で遮られた。

カランッと、落ちた短刀がコンクリートに跳ね返る音がしたと思ったら、視界を遮る黒布が外され、目の前に大好きな治がいた。

「治…」

「Aっ…!良かった、無事で…!!」

安心して、思わず力が抜けた。ぐらりと上半身が倒れそうになるところを治に抱きとめられた。
縛られていた手足の縄も解いてもらい、漸く私は自分の周囲に目がいった。

思った通り豪快に鎧戸が壊された建物内には、25〜30人くらいの男達が気絶させられたり、あるいは、縄でぐるぐる巻きにされたりしていた。国木田さん、賢治くん、敦くんの三人が笑顔で此方に手を振っている(正確には、賢治くんと敦くんの二人が)。確かにあの三人にかかれば、こんな黒社会の端くれ30人くらい、どうってことないだろう。
数が倍いても同じ結果になる気がする。

一方で治に支えられながら立っている私の足下には、物云わぬ屍に成り果て___

___てはいないものの、圧倒的に向こうの30人よりも重傷で気絶している二人の男。…こりゃ、下手すると与謝野女医送りかもしれないぞ。

この二人を昏倒させたのは、国木田さんたちが向こうに居る以上、治しかいないのだろうけど、何をどうやってこの二人を倒したのかは…

「ん?」

訊かない方が私のためでも彼のためでもあるだろう。
どうしたの?と私を案じて小首を傾げる、可愛くも頼れる我が旦那。


治を信じて、良かった。


探偵社の通報で遅れてやって来た軍警に後を任せ、治に守られるように肩を抱かれながら現場を立ち去る。
軍警には後で事情聴取されるそうだが、今日のところは帰って良いらしい。社長も、ゆっくり休め、とのことだ。


帰る前、推理で私を助けてくれた乱歩さんにお礼を云うと、逆に乱歩さんから、

「犯人を刺激せず、じっとしていたのは正解だったよ。お蔭で全員無事に帰れるじゃあないか。君の冷静さを、太宰も少しは見習った方がいいね」

と云われた。褒められた上、私の心中を推理したのかフォローまでもらってしまった。本当に、探偵社は優しい人ばかりだ。

治は苦笑いで「すみません…」なんて云っていたけど、何があったんだろう。
少し気になるけど、今は私も子どもも無事だったことの感謝でいっぱいいっぱいだ。

ーーー
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