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お待たせしました、そう声をかけて料理を並べる。
テレビから視線を食卓に戻した彼は、驚いたように私のほうを見て、それからまた食卓を見る。
「…………なんか、いつもより多い」
「サービスです」
「……え」
「ご飯もお代わりできます」
「……はぁ」
「食べ切れなかったら残して下さい
持ち帰り用にも包めますから」
ごゆっくりどうぞ、そう言ってすぐ厨房へ逃げようと踵を返す。
客一人の店内は、静かであまり居心地が良くない。テレビの音は余計に響くし、どう考えても客一人に対して机に並べられた品数が豊富すぎる。やってしまった。
厨房に下がって、ちらりと彼を盗み見る。
もぐもぐと頬を膨らませながら、ご飯をかきこんでいる。
キャップのせいでここからは目元の表情はうかがえないが、なんとなく満足そうに見えて、ほっとする。
どうして店の中なのにキャップを外さないのかは、少し謎だけれど。
「…………あの」
「……! はい、あ、ご飯ですか?」
「ん……」
「今すぐお持ちしますね」
「どうも」
結構お腹空いてる、という言葉は、どうやら本当だったらしい。
そこそこに盛った白米も、もう平らげたという。
片付けが楽になるし、たくさん食べてくれた方が、こちらとしてもありがたい。
それにご飯をおいしく食べられる人は、多分、いい人だ。
「……お待たせしました」
「どうも」
「わ、おかずも足ります? まだ出せますよ」
「え?」
「今日もうお店終わりなので、
食べてもらえるなら全然出せるんですが……」
「や、けど……」
「あ、そうだ!
賄いでプルコギ焼くけど食べます?」
お腹いっぱいでいられるのは、幸せなことだと思う。
だからみんなそうだろうと思って、この店を手伝う時でも、友達といる時でも、食べることをすすめがちだ。
美味しいものがあれば、分けたいと思う。
「あ、すみません……私、つい」
「…………」
「でも美味しいやつなので、よかったらと……」
「……アンタの賄いじゃないの?
てか、バイト?の人がそんなことしていいの」
「大丈夫です、いっぱいあるので!」
「あとバイトじゃなくてお手伝いの孫なので、そんなことしていいんです」そう言って笑えば、私につられたのか、はは、と彼は笑う。
あ、いまキャップの奥で目が細まるの、見えた。
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svt11117(プロフ) - ほんとにすごく今更だけど、何故か急にこのお話のこと思い出して無性に読みたくなっちゃって漁りまくって読み返しちゃいました!初めて読んだ時と変わらずとても面白くて一瞬で読んじゃいました笑笑 自粛期間の私の唯一の楽しみでした、ありがとうございました、!! (2023年3月10日 20時) (レス) @page30 id: 45166a94c7 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - あやまろさん» コメントありがとうございます。書きながらちゃんと面白いのだろうかと思っていたので、そう言って頂けてうれしいです。引き続きよろしくお願いします! (2020年11月8日 22時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
あやまろ(プロフ) - 初コメさせていただきます!今1番更新が楽しみな作品で更新される度ニヤニヤして読んでます笑 そして何よりお忙しい中更新してくださってありがとうございます! (2020年11月8日 17時) (レス) id: 74f0e4a445 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - ★たくさんお気に入りしてくださってありがとうございます!このお話は年内に完結するようにがんばりたいと思います。また別のお話や短いお話も書きたいなと思っています! (2020年11月5日 19時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - めぐさん» お返事遅くなってすみません!コメントありがとうございました……!まただいぶ間隔があいてしまいましたが少しずつ進めていけたらと思っています。これからもよければお付き合いください! (2020年10月17日 4時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:my | 作成日時:2020年2月16日 0時