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カツカツと、急いでいるような不規則な足音が聞こえる。
しゃくりあげる声がドアのすぐ向こうで止まった。
ドアスコープなんて確認せずに、すぐドアを開けた。
冷たい華奢な手首を掴んで部屋に引っ張り込む。
今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られたが、謝ってからと思い直してAの姿を見た。
一日ぶりのAは、いつもよりもずいぶんきれいに着飾っていた。小雨に降られてしまったのか髪も服も濡れていて、涙で化粧が滲んでいる。
それでもAはとても綺麗で。
こんな綺麗な彼女をわんさか男がいるところに行かせたと思うと自分を殴りたくなった。
ゆっくりと顔を上げたAと目が合う。散々泣いて赤くなった目。
ごめん、俺ほんとに最低だ。
口を開けようとすると、持っていたクラッチバッグを思い切り投げつけられた。
いつもより多めの化粧品がこぼれる音がする。
「馬鹿な女だなって、思ってるんでしょ！勝手に怒って勝手に拒否して、勝手に遅く帰ってきて雨に降られたボロボロの女だって！」
「当てつけで行った二次会なんて全然楽しくなかったよ！みんなガヤガヤしてる中知らない人にすり寄られて、突き飛ばしたら一気に静かになっちゃってさ！」
「嫌になって、たくさんお金おいて店を出たら雨降ってるし！それでも濡れながら、結局昨日喧嘩した彼氏がいる気まずい家に帰るしかないなんて、なんてみじめなんだって！」
珍しく大きい声を出して、Aは泣きながら俺を叩く。
Aが傷ついた。俺のせいで傷ついた。
好きなのに、最近ろくに話もしていなかった。
大事に思っている気持ちだって、Aに伝えもせずに。
独りよがりで、ごめん。
「離してよ！離して！当然だって思ってるくせに！こんな目にあって当然だって…」
『…っA！』
もう泣き続けるAを見ていられなくて、思い切り抱き寄せた。普段より露出の多いAの肌は濡れていて、驚くほど冷え切っている。
これも全部俺のせい。全部全部俺のせい。だから、今すぐ俺が悪いって言えよ。
バカなんて、みじめだなんて思わないから、お前のせいだって言ってくれよ。
俺も息が詰まるくらい抱きしめる。濡れた後頭部をぐっと胸元に引き寄せる。頬をAの頭に寄せて、冷えた体が早く温まるように。
『ごめんっ…』
急に力が抜けたAの体をしっかり支える。幼い子どもみたいに泣くAの背中をさすり続けた。
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作者名：さつき | 作成日時：2020年8月12日 3時
