゜ ページ26
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『……』
「……」
くそ、しゃべれねえ。
そもそも心の準備も出来てないまま電話かけさすんじゃねえよ鼻声野郎。
レトさんが勝手にこんなことしなくても俺は…いや、電話はかけないけどさ。
後頭部をガシガシしながら沈黙すること数十秒。
もうダメだレポートの邪魔になるだろうし今日は切ろう、次はないだろうけど、と俺は諦めた。
しゃべる勇気は出せないくせに、諦めの行動は早いなんてさ。
俺もわかってるよ、自分がヘタレだって。
『急にごめん、切るわ』
「あ、今日…」
『何？』
切るわ、と言った瞬間にAも何か言ったらしい。
タイミング…！と思いながら急いで聞き返すと、「あ、切る？わかった」と切ろうとするから、今度は俺が遮った。
『いや！…どうした？』
「あー、大したことじゃないんだけど…今日、こっち虹が出たんだ」
『にじ？』
今度はちゃんと準備して受け止める体制に入っていたのに、想像の斜め上の言葉が飛んできてさすがに拍子抜けした。
「だから言ったじゃん！」と焦るAの声を静かに聞いて、ごめん…と心の中で謝罪した。
急に電話かけてきて何か話そうと思ってひねり出したのが虹だったんだよな。きっと。
申し訳なさが余計に積もり、肩を落とした。
別に気を使わせたい訳じゃなかったのに。
「…やっぱり、覚えてないか」
『え？』
「高校の時から今までの連絡って、いつも私からだったじゃん。まあそれでいいんだけど」
「でもね、唯一キヨから来たメッセージがね、虹の写真だったの。高１の時かな。虹が見えたのでってだけ、写真と送られてきた」
「だから今日久しぶりに虹を見て、キヨのことを思い出していたのです」
ああ、これだから。
何も言わない俺に不安がってゆっくり話してるけど、好きな女からそんなこと言われて嬉しくない奴はいねえよ。
俺は今無意識のうちに上がる口角を自覚してもう恥ずかしいんだぞ。
『次の連休、こっち帰ってくる？』
「…理由を述べよ」
『高校んときからのツケを払おうと思ってさ。男らしく？』
「んー男を見せるなら、待ちくたびれた女性を迎えに来るくらいしてみては？」
おどけた口調に懐かしさを覚える。
昔から口が上手かったけど、今も変わんねえのな。
勝ち誇った顔をするAに、すぐ降参する俺も含めて。
『待たせてごめん、もう逃げたりしないから』
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＋＋＋
お久しぶりでした…！
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作者名：さつき | 作成日時：2020年8月12日 3時
