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これは、彼の愛。
愛の形は人それぞれだって言うし。
極端に人との関わりを嫌うことも、白い肌を埋めるように唇を這わすことも、時々暴力を奮うことも。
一つ一つが、愛されている証拠だ。
だけどね。
やっぱり私は頭が悪くない。
だから、私の受けている愛が世間でいうところの普通、ではないことは充分わかってる。
それに気づいていて逃げない私も、きっと普通じゃない。
誰かに言えば、やめた方がいいと迷わず言ってくると思う。
関係を終わらせて誰か普通の人と出会えたら、「あの時はどうかしてた」なんて簡単に過去の話にも出来るはずだし
むしろ何であんな状態だったのか、反省することはまず間違いない。
ただ、何度も言うけど、私は満足している。
恋は盲目。
恋の、そのど真ん中に沈んでいるときは、感覚が麻痺してしまうんだと思う。
嬉しさも、楽しさも、痛みも、苦しみも。
全部“愛”のおかげで小さくなって、理性の網にはかからない。
ぼやっとした感覚のまま積もりに積もって、最終的には視界を覆ってしまう。
わかってる。
決して普通ではないこと。
ゴールがなくて、良い方向に行くはずもない愛であること。
そして何より、精神、身体ともにボロボロになっていくのは私だということ。
それが何だ。
たとえ誰かに非難されたって。
たとえ後悔に苛まれようと。
それでも
今この瞬間の幸せを優先しようとするのは、きっと普通でしょ？
あなたもそうでしょ？
『おい』
ベッドの上で、お互い向かい合ったまま。
またぼーっとしてしまった私に、睨むような視線が刺さる。
『ほんとに言うこと聞けねえのな』
冷たい表情をしたまま、キヨが私に跨る。
強く胸倉を掴まれて、首元が少し浮いた。
きっとこのまま、誰も私たちに気づかなかったら。
ううん、このまま私が、ここから逃げなかったら。
私たちはずっと普通じゃないまま。
じゃあ。
どうせもう、戻れやしないんだ。
それなら、いっそ。
私を見下ろすキヨの顔に手を伸ばし、頬にそっと触れる。
今までただ謝るだけだった私のそれに、若干驚きの色を浮かべた。
「見えなくして。キヨ以外、何にも」
「全部消してよ、その手で」
胸倉を掴む手を片方だけ緩め、私の手に重ねる。
優しくなでながら私を見つめるその瞳は、微かに、でも確かに、迷いで揺れていた。
違う。そうじゃないでしょ。
手を握る。
そしてまた彼は、ニッコリ笑った。
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作者名：さつき | 作成日時：2020年8月12日 3時
